アポロドーロス 第1巻
構成
第一章~第六章 神々について
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
第六章
第七章~第九章 デウカリオーンの後裔
第七章
第八章
第九章
第一章~第六章 神々について
第一章 神の支配権の三世代交代
ミルチア・エリアーデの提唱した理論などによると、神の支配権の三世代交代は、メソポタミア神話から引き継いだものであろう。
ウーラノスークロノスーゼウスと三世代交代が描かれている。
第一節と第二節 「百手巨人ヘカトンケイル」と「キュクロープス」
天空が最初に全世界を支配した。大地を娶って先ず「百手巨人」と呼ばれるブルアレオース、ギュエース、コットスを生んだ。
これらの巨人の後に大地は彼にキュクロープスたち、すなわちアルゲース、ステロペース、ブロンテースを生んだ。そのおのおのは額に一眼を持っていた。
しかし天空は彼らを縛してタルタロスへと投げ込んだ。
ウラノスの支配権で、タルタロスへ投げ込まれる巨人族に、三種類いる。
最初は、「百手巨人」の3人。次は、キュクロープス(一つ目巨人)の3人。
そして最後がティーターン族である。つまり「巨人族」なわけだが、その末っ子が、クロノスである。
これは、最初の文明人が「建築集団」「冶金集団」であったことを投影しているようだ。
これはフェニキア人であろう。
そしてクロノスもゼウスも末子であることは、昔は末子相続制だったことの投影であろう。
第三節 ティーターン族
さらに彼は大地によってティーターン族と呼ばれる子供たち、すなわちオーケアノス、コイオス、ヒュペリーオーン、クレイオス、イーアペトス、および末弟クロノスを、またティーターニスと呼ばれる娘たち、すなわちテーテュス、レアー、テミス、ムネーモシュネー、ポイベー、ディオネー、テイアーを生んだ。
ティーターンとティーターニスを生む。
このうち末弟クロノスと長姉レアーが重要であることは言うまでもない。
長姉が末弟と結婚する、これは、女性の力が強く、女性は晩婚で、自分の一つ下の世代のツバメ男子と再婚していたことの投影であろう。
しばしば、英雄たちは、母親の世代の妻を娶ったりしている。オイディプースが母と結婚するのをまわりは自然なことと見たのである。
神の世界でも、大女神と植物の精という関係性が成り立っていた。
アプロディーテとアドーニス、ヘラとヘラクレスなどは、母にして妻、息子にして夫という関係なのだ。
ティーターニスで押えるべきはレアーとテミスである。テミス(法)は、ピュートーンが神官として託宣所を開いていた時の神であろう。それをアポロンが簒奪した。
ティーターン族で押えておくべきは、長男オーケアノスと末子クロノスである。
オーケアノスの子孫は、先住民が投影されていると見てよい。
第五節~第七節 ゼウス世代の誕生
クロノスは、・・・先ずヘスティアーを呑み、ついでデーメーテールとヘーラー、その後プルートーンとポセイドーンとを呑み込んだ。
これに怒ってレアーはゼウスを孕んだ時にクレータに赴き、ディクテーの洞穴でゼウスを生んだ。
クロノスは予言によって子供たちに支配権をうばわれることを恐れ、呑みこむ。
長女ヘスティアー、デーメーテールとヘーラー、プルートーンとポセイドーンを呑みこんだ。
怒ったレアーは、クレタ島のディクテーの洞穴でゼウスを生んだ。
ゼウスが末子であり、末子相続であること。
ゼウスと同世代は、デーメーテール、ヘーラー、プルートーン、ポセイドーンであるが、ゼウスより古い神であろう。
ゼウスはクレタ島生れであること。
クレタ島がギリシア文明の母であることの投影であろう。
第二章 ゼウスの支配権 ティーターンたちの子供たち
第二章は、第一節の「ゼウスの支配権」確立と、第二節から第七節のティーターンの子供たちの内の「大洋の眷属」の二つの部分から成る。
第一節 ゼウスの支配権確立
一項 タルタロスからへカトンケイルらとキュクロープスらの解放
十年の戦闘の後ゲーはゼウスにタルタロスに投げ込まれた者たちを味方にしたならば勝利を得るであろうと予言した。彼は彼らの番をしているカムペーを殺してその縛を解いた。
ゼウスのヘカトンケイルとキュクロープスの解放はたとえば、建築技術者と冶金工集団である先住民を解放したことの投影か。
2項 ヘカトンケイルらとキュクロープスらの臣従
そこでキュクロープスたちはゼウスには雷霆を、プルートーンには帽子を、ポセイドーンには三叉の戟を与えた。
神々はこれらの武具に身をよろい、ティーターン族を征服してタルタロスに幽閉し、百手巨人どもを牢番とした。
3項 籤で支配権割当て
しかし彼ら自身は支配権に関して籤を引き、ゼウスは天空を、ポセイドーンは海洋を、プルートーンは冥府の支配権の割当てを得た。
第二節 オーケアニデス と デーロス島の政権交代
1項 オーケアニデス
オーケアノスはテーテュースから大洋の娘、
すなわちアシアー、ステュクス、エーレクトラー、ドーリス、エウリュノメー、メーティスが、
アポロドーロスの挙げている「オーケアニデス」は6人。
しかし説によって3000人までにあるという。
ティーターンの長男であって嫡男でないオーケアノスと長女のテーテュースの間の娘たちである。
(嫡男はクロノスであり、その妃は次女レアーである。)
2項 デーロス島の政権交代
コイオスとポイベーからアステリアーとレートーが、
ヒューペリオーンとテイアーから曙、太陽、月、
デーロス島を占拠した植民者のリーダーの祖先は、ティーターンのコイオスとポイベーと措定されている。コイオスは、ティーターンのオーケアノスに次ぐ次男。ポイベーは、五女である。
この二人から、最初のデーロス島の支配者アステリアーとレートーが生れた。
後から、北方から南下して来たレートー女神とアポローンとアルテミスの教団によって、この先住民は隷属させられ、地元の女神アステリアー教団は吸収されたようだ。
三男ヒューペリオーンと七女テイアーから、自然現象の曙と、自然天体の太陽と月が生れる。
この太陽=ヘーリオスと月=セレーネーこそが、真の太陽神であり、月の女神である。
太陽神・月神の地位も征服者たちに奪われることになる。
しかしハンニバルがピリッポス五世との間に取り交わした条約文の神々の中に、
カルタゴ・マケドニア共通のゼウス、ヘラ、アポロン、ヘラクレス、ポセイドンなどの外に、
「「我々とともに戦うすべての神々、太陽、月、大地、川(複数形)、港(複数形)、水(複数形)」として登場している神々があることで」(『通称国家カルタゴ』P353)と言及されているのは興味深い。
フェニキア人は、ギリシア人がオリュンポス12神のプリミティブな神学体系を発展させたのに対して、元来の自然崇拝、ローカルごとの神々という形でのある種の一つの神的エネルギーの分配として神力理解、もしくは「汎神論」的解釈を保持していたのであろう。
それこそがタレスが始めた哲学の思考形式に合致する合理的な敬虔さであるのだ。
第三節 アトラース・プロメーテウス・エピメーテウス三兄弟の誕生
イーアペトスとアシアーから蒼穹を両肩に支えているアトラース、プロメーテウス、エピメーテウスおよび・・・が生れた。
ティーターンの五男イーアペトスと長男のオーケアノスの長女アシアーの間に生れたのが、ティーターン族の三兄弟アトラースとプロメーテウスとエピメーテウス。
オーケアノスの勢力範囲はリビアからイベリアであろうから、彼ら三兄弟ももともとの本拠地は、
アトラス山脈のあるジブラルタル附近であると想定される。
ところがプロメーテウスとエピメーテウスの子孫であるデウカリオーンとピュラーからアイオリス王家の祖ヘレーンが誕生するので、後にコーカサス地方に本拠が分散したのであろう。
もっともギリシアの古代の地理学では、西リビアおよびイベリアとコーカサス地方の同一化がなされていたから、同じことなのだろう。
第四節 勝利・支配・競争心・暴力の誕生
パラースとステュクスから勝利、支配、競争心、暴力が生れた。
このパラースは、ティーターンの四男クレイオスと、ヘーシオドスによれば大地であるガイア(ゲー)が一人で生んだポントス(海洋)(つまりウラーノス(天空)と兄弟)の娘エイリュビアーの子である。いずれにせよ先住民の投影である。
そのパラースとオーケアニデスの一人ステュクスから生れた子供たちは、自然物ならざる概念である。
これは、フェニキア人のなかで、文明化による負の側面、貧富の格差と民族内での闘争が発生してきたことの投影であろう。
これらの概念の内、ニーケーは女神として人格化される。像としてはサモトラケ島出土のニーケー像が有名である。ナイキの語源でもある。サモトラケ島はカヴェリアの秘儀の本拠地である。
このパラースはアテーナーに殺され皮を剥がれて鎧にされた。(一章6-2)。
アテーナーは、ゴルゴーンの首も飾りにしている。
これは、アテーナイ人が、テーバイ人と不倶戴天の敵であり、テーバイ人(カドモス一統)の構築した文明的成果を横取りしたことの投影であろう。
第六節 ポントス(海洋)の眷属
海洋と大地からポルコス、タウマース、ネーレウス、エウリュビアー、ケートーが生れた。
とポントスは、根源的な神である。
こそから生れたの海の眷属で、ネーレウスとケートーが重要である。
勝ち組のネーレウスと負け組、ゆえに怪物の母とされた女怪のケートーが生れる。
そしてタウマースとエーレクトラーから虹およびハルピュイアのアーエローとアオーキュペテーが、
ポントスの子タウマースとオーケアニデスのエーレクトラーから、勝ち組の虹(イーリス)と負け組で女怪のハルピュイアが生れる。
ポルコスとケートーからポルキデス(ポルコスの娘たち)およびゴルゴーンたちが、
ポントスの子供同士(兄妹)の結合からゴルゴーンたちが生れる。
この結合の子供たち、すなわちゴルゴーンは、もっとも古く(クロノス世代同士)、格が高いとみえる。
ゴルゴーンの本拠はリビアである。
メドゥーサは、本来のポセイドーンの妃にして、アトランティスの女王であったのだろう。
第七節 ネーレイデス
ネーレウスとドーリスからネーレイデス(ネーレウスの娘たち)が生れた。
ネーレウスはポントス(ウーラノスと兄弟)の子だが、ドーリスはオーケアノスの娘オーケアニデスである。つまり、クロノス世代とその下のゼウス世代の結合からネーレイデスは生れた。
ネーレーイデスの名は、・・・アムピトリーテー、テティス、ガラテイア、カリュプソー、・・・・である。
ネーレイデスのアムピトリーテーは、あきらかにゴルゴーンのメドゥーサより格が低い。
ポセイドーンのような第一級の神に、こんなケチな妃がついているというのは、この神話が、テーバイ人と敵対するアテーナイ人により変容させられた結果であろう。
ポセイドーン妃のメドゥーサは、ゼウス妃のヘーラーに投影される。
第三章 ゼウスの子供たち 詩神たち
第一節 ヘーラーとの嫡子たち 概念的女神たち 大女神たちのアドプション
1項 ヘーラーの嫡子アレース
ゼウスはヘーラーを娶って、ヘーベー、エイレイテュイアー、アレースを生んだが、・・・
ゼウスの正妃は、ヘーラーである。
ヘーベー、エイレイテュイアーはヘーラーの分身でしかなく、二人の正統な子供はアレースのみである。しかるに、アレースはヘーラー同様不遇である。
アテーナーにいつもやっつけられ、脳筋の暴れ者で嫌われ者である。
アレースもテーバイの戦神であり、スパルタをカドモス一統が制覇すれば、スパルタの戦神となる。
またアレースとフェニキア人の大女神アシュタルテ(アプロディーテ)の間の娘ハルモニアーは、カドモスと結婚する。
2項 大女神たちのアドプション
1・根源的・概念的な女神たち
天空の娘テミスより娘の季節の女神(ホーライ=規則正しい自然の循環の意)すなわち平和、秩序、正義を生み、
テミス(不変なる掟)は、ウラーノスとゲーの娘で、根源的な女神である。
ゼウスからは一世代上(クロノス世代)である。
ホーライ=規則正しい循環の概念神を生む。
エイレーネー(平和)、エウノミアー(秩序)、ディケー(正義)である。
法の女神像(正義の女神像)はテミスである。
天秤(正義)と剣(力)を持っており、公正を期すために目隠しをしている。
またクロートー、ラケシス、アトロポスの運命の女神たちを得、
オーケアノスの娘エウリュノメーより優雅女神アグライエー、エウプロシュネー、タレイアを、
ムネーモシュネー(記憶)より先ず最初にカリオペー、次いでクレイオー、メルポメネー、エウテルペー、エラトー、テルプシコレー、ウーラニアー、タレイア、ポリュヒュムニアーのムーサたち(芸術の女神)を得た。
三人の運命の女神たち(モイライ)、
三人の優雅女神たち(カリテス)、いわゆる三美神。
九人の芸術の女神たち(ムーサたち)である。
これらも原初的な女神たちである。
ムーサたちの本拠地は、ボイオティアのヘリコン山付近である。
ボイオティアこそ、ギリシアの文明の曙的土地であることの投影であろう。
2・大女神のアドプション
ディオーネーよりはアプロディテーを
アプロディーテーは、外来の女神である。
もとはテュロスからフェニキア人が輸入したアシュタルテである。
ステュクスよりペルセポネーを
デーメーテールの娘コレーと同一視される。が、ここでは母はステュクスである。
ということは、ペルセポネは冥界の河ステュクスの娘であり、のちにデーメーテールの娘コレーと習合したのであろう。
第二節 詩神たち
第1項 リノスとオルペウス
カリオペーとオイアグロスから、しかし名義上はアポローンから、ヘーラクレースが殺したリノスおよび歌によって木石を動かした吟遊詩人オルペウスが生れた。
ボイオティアのムーサとトラキア王オイアグロスから、リノスとオルペウスが生れた。
「名義上はアポローンから」というのは、アポローン信徒が、ボイオティア通過して、ボイオティアのジモティーであったムーサの信徒を掃蕩して行ったからである。
ボイオティアの地元は二本笛の音楽の発祥であり、トラキアから竪琴をもった詩人の集団が移住し、おそらくテーバイ王家が招き、ボイオティアで、二本笛と竪琴の共存した詩の文化を形成していた。
オルペウスやリノスは、トラキアから移住して、テーバイ王家お抱えの詩人だったのかもしれない。
オルペウスは、トラキアからディオニューソス信仰を持って来たようだ。
第2項 オルペウス
オルペウスはまたディオニューソスの秘教を発見し、狂乱女たちに引き裂かれてピエリアーに葬られた。
オルペウスは、テーバイ王家に招かれ、竪琴とディオニューソス信仰を輸入したが、おそらくテーバイでその受け入れについて確執があったのだろう。
後年、アポローン信徒によって、ディオニューソスVSアポローンの文脈で、ディオニューソス信徒に殺されたことになっているが、実際は、テーバイ王家にディオニューソス信仰を移植したのがオルペウスだっただろう。
実際の王家の男性陣が反ディオニューソスで、女性陣が信徒という確執があったかどうかは判らない。
これは後に詳細な考察をもつ。
第3項 ヒュアキントスの誕生
クレイオーはアプロディーテーの怒りにふれーというのは女神のアドーニスに対する恋を非難したからであるーマグネースの子ピエロスに恋して彼と会し、彼によって一子ヒュアキントスを得た。
ムーサの長女クレイオーが、人間に恋して生んだ子が、ヒュアキントス。
ヒュアキントスは、スパルタの古王でもある。
しかしヒュアキントスの原型は、アプロディーテーに愛されるアドーニスの投影である。
フェニキア人の大女神アシュタルテの植物の精アドーニス(祭政一致の神官王)の投影が、ヒュアキントスなのだろう。
第三節 ボイオティアのムーサ集団とトラキアから来たアポローン集団の確執と和解
第一項 ヒュアキントスの殺害と元祖同性愛
ピラモーンとニムフのアルギオペーの息子であるタミュリスが彼に恋し、彼が男性を愛する魁けとなった。
フェニキア人のテーバイ王家が、ギリシアに同性愛文化を持込んだ。
元祖同性愛が、トラキア王家の流れをくむアポローンの孫という設定のタミュリスが、ボイオティア生まれのヒュアキントスに恋をしたことである。
ヒュアキントスはアドーニスの投影であろうから、フェニキア人、テーバイの王族と想定できる。
テーバイ人が同性愛をギリシアにもちこみ、神聖隊を作ったことは有名である。
しかし後アポローンの恋人となっていた折りに神は円盤を投げて誤ってヒュアキントスを殺した。
舞台はボイオティアである。
フェニキア人のムーサの信者集団を、南下してきたアポローンの信者集団が戦闘か抗争で殺害したことの投影であろう。
第2項 歌合戦神話
その美貌と吟唱の技にかけて人にすぐれていたタミュリスはムーサ女神たちと歌の技の競いをした。
その条件は、もし彼が勝利を得れば彼女らをすべてわがものとする、これに反して敗れた場合には彼女たちの欲するものをなんなりと奪われるというのであった。
ムーサたちが勝利を得て、彼の両眼とその吟唱の技とを奪った。
数ある歌合戦神話の一つである。
オリュンポス12神になる新しい神々による征服譚の一形式である。
ただしこれは、アポローン集団をジモティーのムーサ集団が返り討ちにした事件の投影であろう。
第四節 両音楽集団の和解
タレイアとアポローンよりコリュバースたちが、
メルポメネーとアケローオスからセイレーンたちが生れた。
コリュバースたちは、小アジアのキュベレー神官たちであろう。
アケローオスは、カリュドーンのアケローオス河の河神である。
いずれにせよ、ボイオティアのムーサ集団と、北方から来た音楽集団の和解を投影しているのではないか。
テーバイ王家は、ディオニューソス信仰も受け入れ、二本笛は棄てず、竪琴を導入していく。
フェニキア人は、外国文化を融和的に同化する民族である。
第五節 ヘーラーの単独発生
ヘーラーは男と臥床をともにすることなくしてヘーパイストスを生んだ。
ゼウスは縛められたヘーラーを救いに来たというので彼を天空より投じた。
レムノス島に落ちてちんばになったヘーパイストスをテティスが救った。
ヘーパイストスは、ヘーラーがギリシア本土に上陸する前に作った神であろう。
レムノス島で生まれたのだ。
フェニキア人がテュロスから沿岸沿いに植民を続け、レムノス島を制覇したからだ。
同様に、フェニキア人は、シケリア島も制覇し、そこにもヘーパイストスの本拠がある。
第六節 アテーナー
ゼウスが成年に達するやオーケアノスの娘メーティス(=智)を協力者とした。彼女はクロノスに薬を呑むように与えた。薬の力で彼は先ず石を、ついで呑み込んだ子供らを吐き出した。
メーティスはオーケアノスの娘であり、ゼウスの従兄弟であるが、末子相続制でいえば、王位継承者のクロノスの子供であるゼウスとヘーラーのほうがはるかに格上である。
ゼウスは、彼が近づくのを避けるためにいろいろの形に身を変じたメーティスと交わった。彼女が孕むや時を逸せず呑み込んだ。
大地がメーティスが彼女から生れんとする娘の後に一人の男の子を生み、その子は天空の支配者となるであろうと言ったからである。
これを懼れて彼女を呑み下したのである。
「彼が近づくのを避けるためにいろいろの形に身を変じた」のは、ポセイドーンをきらって変身して逃げ回ったという伝承があるアムピトリーテーと酷似する。
この伝承は、呉本のP411-412で紹介されている。(アンピトリーテー)
このアンムピトーテー(アンピトリーテー)は、ポセイドーンとは身分違いのマイナーな女神である。
ネーレウスの娘、ネイレーデースに過ぎない。
実はポセイドーンにはメドゥーサという正妻がおり、アトランティスの王妃は、メドゥーサであっただろう。
ゼウスは身分の低いメーティスを離婚して、高貴なヘーラーと結婚したのであろう。
このパターンは頻繁に現われる。
オルコメノスの王アタマースは、同族のネペレー(おそらくダナオイ人)を離婚して、テーバイ王家のカドモスの娘イーノーを娶る。(イーノーはカドモス一統つまりフェニキア人である)。
テーセウスは、身分の低いアマゾンの女を捨てて、クレタ帝国の王女パイドラーを娶る。
(パイドラーもミーノースの娘だからフェニキア人である)。
誕生の時がきた時に、プロメーテウスが、あるいは一説によればヘーパイストスが、ゼウスの額を斧で撃ち、その炉頂よりアテーナーがトリートーン河の岸辺に武装して飛び出した。
アテーナーは、メーティスの生れ代りであり同一視される。
つまりアテーナーは身分の低い前妻なのである。
トリートーニス河畔=リビアのトリートーニス湖畔。
リビアとコーカサスは同一視されるので、アテーナーにはアマゾーンが投影されている。
コーカサスのアマゾーン族は、女も騎馬し戦ったスキタイ族を解したものであろうし、
リビアのトリートーニス河畔には、ヘロドトスによれば、武装して戦う処女がいた。
(第四巻180)「ギリシアでアテナの名で呼んでいるこの土地生れの女神」と明記し、
アテーナーが「トリトニス湖」生れと断定している。
アテーナーとヘーラーは不倶戴天である。
メドゥーサはヘーラーに投影されているだろう。
ポセイドーン=ゼウスである。
アテーナーはアテーナイの守護女神であり、ヘーラーはアルゴスを併呑したテーバイ王家の主要女神であったといえよう。
そして、テーバイとアテーナイは歴史を通じて不倶戴天の敵なのだ。
ヘーラーが悪者扱いされているのは、神話を収集し改造したのがアテーナイであったからだ。
第四章 デーロス島縁起
第一節 デーロス島 と デルポイ の征服
第一項 アステリアーの創建 アポローンとアルテミス教団の征服
コイオスの娘たちの中で、アステリアーはゼウスと交わるのを厭って身を鶉に変じ海に投身した。
そして前には彼女の名を取ってアステリアーと呼ばれていた市が後にデーロスと呼ばれた。
デーロス島を最初に文明化したのは、本土から上陸したアステリアーである。
アステリアーは、ティーターンのオーケアノスに次ぐ次男コイオスと五女ポイベーの間の子であり、
ティーターン族、すなわち先住民である。
ゼウスと交わったレートーはヘーラーによって大地のあらゆる所において追い立てられ、遂にデーロスに来って先ずアルテミスを生み、彼女を産婆としてアポローンを生んだ。
レートーは、小アジアかさらに北方の大女神の一つであろう。
ヘーラーは、ギリシア本土を制覇したカドモス一統の統治するテーバイの、後にはアルゴスの主女神であり、田舎のケチな女神のレートーが凌駕されたことを意味しよう。
アルテミスは小アジアの大女神で、キュベレーと習合もしくは同一視されよう。
キュベレーの聖獣が獅子であるので、太陽信仰とも係わりが深いかもしれない。
アポローンは、小アジアかそれより北のヒュペルボレイア人の国の神であり、疫癘の神であろう。
それゆえ、アルテミスとアポローンの生誕地は、デーロスではなく、北方である。
第二項 アポローンとアルテミス教団の権能の掠奪
アルテミスは狩猟を事とし、処女として身を持し、
アポローンはゼウスとヒュブリスの子パーンより予言の技を学び、デルポイに来た。
アルテミスは、もとはキュベレーのように豊穣の女神であったが、南下にともなって狩猟の女神の権能がプラスされた可能性がある。
一つの可能性は、デーロスの王でありアステリアー教団のパトロンであり、アステリアーの子孫であったらしいオーリーオーンを殺して、その権能を奪ったのかもしれない。
アポローンは、予言の技をゼウスとパーンから学んだという。
ゼウスの古い託宣所はすでにあったし、パーンは、アポローンより古く予言の権能があったと思われる。アポローンはもともと予言の権能を具えておらず、デルポイでテミスもしくはピュートーンの神域である「大地の裂目」を制圧し、自分たちの神域にしてしまったのだろう。
第三項 デルポイ の 征服
その当時はテミスが神託を与えていた。
神託を守護していた蛇のピュートーンが彼が地の裂目に近づくのを遮った時、これを退治し、神託をわがものとした。
デルポイの託宣所は、「大地の裂目」があり、そこでテミスの巫女もしくは、神官王であったピュートーンが、強力な託宣を与えていたのだろう。
このピュートーンは、蛇と関係の深いテーバイ王家カドモス一統であっただろう。
南下してきたアポローンとアルテミスの教団は、テーバイの藩王であったピュートーンを征服したのだろう。この二人が人間の宗教団体であったことは、パウサニアスのあまりにも人間くさいアルテミスとアポローンの神託所簒奪と禊の追放については、パウサニアス『ギリシア案内記 下』の第10巻のフォーキス編に詳しい。
第二節 竪琴の導入
第一項 マルシュアースの二本笛音楽集団
アポローンはまたオリュンポスの子マルシュアースを殺した。
彼は、アテーナーが顔を醜くするというので投げ棄てた笛を見つけて、アポローンと音楽上の争いをしたからである。
マルシュアースとは何者か?
ここに「オリュンポスの子」とある。
これから察するに、オリュンポス山の麓の地域の「生え抜き」の王であったという仮説が成り立つ。
次に「アテーナーが顔を醜くするというので投げ棄てた笛」というのは、捏造であろう。
マルシュアースはアウロスすなわち二本笛の音楽集団の投影であろう。
二本笛(double-oboe)は、「共鳴管が根元から二本に分かれ、左右の手でそれぞれ操作する」オーボエである。
神話上の演奏者はディオニューソスの仲間のサテュロスに充てられ、マルシュアースもサテュロスの一人とされる。
テーバイ王家は、最初ディオニューソス信仰を導入し、二本笛の楽団を抱えていたのだろう。
ところがアポローン教団が南下して、テーバイ王家に抱えられるようになると、その導入した
リラ(竪琴)を貴族が教養として身に着けるようになり、職業楽人の二本笛との住み分けがなされたのであろう。
テーバイでは長らく、笛に合わせて行進し、戦闘し、エパミノンダスのようにカドモスの子孫の貴族たちはリラから発展したキタラという竪琴を教養として身に着けていた。
アテーナーが云々という行は、アテーナイ人が、不倶戴天のテーバイ人やテーバイ人の子孫のスパルタ人の木笛に対する愛情を批判し、貶めるために生れた神話であり、
アポローンによるマルシュアースの処罰も、アポローン教団が、ディオニューソス教団を非難して言い始めたことであろう。
竪琴について
リラ(λύρα)
紀元前2700年ごろから確認されている。
東方竪琴
「フラットベースの竪琴としても知られる東部の竪琴」といわれるように、底がフラットになっている。
最古の資料は、ウルのスタンダートである!!つまりシュメル人である。(ヘロドトスの言うようにシュメル人がフェニキア人の祖先であるならばフェニキア人の発明といえよう)
この竪琴は、古代エジプトの古都ワセト(ギリシア語のテーベ)でも発見されている。
おそらくナルメルパレットの時代には、シュメル人がエジプトに進出し、文明を推進させていたであろうから、この竪琴もシュメル人によってエジプトにもたらされたのであろう。
西方竪琴
「ラウンドベースの竪琴と呼ばれることもある西洋の竪琴」といわれるように、底が丸い。
こちらもフェニキア人起源のようである。Wikipediaに、「紀元前 3 千年紀にシリア北部とアナトリア南部で生まれました」とある。ところが、「紀元前 1750 年頃までにこの地域ではこの楽器は完全に消滅」し、「西洋で再登場しました紀元前 1400 年から紀元前 700 年の間に使用された竪琴の唯一の形式でした。」
それはクレタ島のミケーネ人占領下と見なされる前1400年頃のハギア・トリアダの石棺に見られるということだ。
つまり線文字Bを使用していたクレタの占領ミケーネ人に由来するということになる。
ところで、この占領ミケーネ人は、私の見解ではアカイア人ではなく、カドモス系テーバイ人である。
キタラ(κιθάρα)
古代ギリシアの古典期には、リラから発展した竪琴をキタラと呼ばれるようになる。
アポロドーロスによれば、キタラの発明者は、アルカディア生れのヘルメスである。
ヘルメスが発明し、それをアポローンがもらった形になっている。
つまりこれは、このヘルメスは、オーケアノス系のプロト・カルタゴ人(リビアからキュテラ島経由でペロポネソスに侵入したフェニキア人)かテーバイがアルゴス地方に進出したテーバイ帝国のフェニキア人かの投影であろう。
つまり、トラキアからアポローン教団とともに再輸入される以前に、竪琴は、フェニキア人になじみの深いものであったことだろう。
それゆえアウロスの音楽集団とキタラの音楽集団は、確執を持ちながらも、テーバイではともに王家のお抱え楽団として大切にされてきたであろう。
良い文化は選り好みせず導入し、その土地の「生え抜き」種族とも共存共栄を計るフェニキア人らしいアプローチである。
二本笛(αὐλός)
ダブルフルートと訳されるアウロスは、「a double-reeded instrument」であり、
「共鳴管が根元から二本に分かれ、左右の手でそれぞれ操作する」とある。
起源は不明だが、マルシュアースの発明ということは意味深長である。
マルシュアースの出身は、小アジアで、この音楽対決も舞台は、小アジアで、審判は有名なプリュギアのミダス王である。
同様の音楽対決が、アポローンとパーンの間で演じられ、ミダス王がロバの耳にされた神話がある。
このことから、小アジアの大女神キュベレーやディオニューソスと関係の深い楽器であろう。
キュベレーは本来のアルテミス(エフェソスのアルテミス)と同一視される豊穣の女神であろうから、二本笛も竪琴も、小アジアやトラキアから再輸入された経緯が伺われる。
いずれにせよパーンは古く偉大な神であり、ギリシア本土に入っては、オリュンポス地域を中心に、アルカディアまで浸透していた土着宗教と化していた可能性が伺える。
その偉大な神が、後発のアポローン信徒によって卑小化され、その残滓が一つがマルシュアースなのであろう。
テーバイ王家につかえたオルペウスは、竪琴と二本笛、アポローンとディオニューソスの両方に関係が深い。
パーンが、後のオルペウス教の「原初の両性存在の神、プロートゴノス(Πρωτογονος、最初に生まれた者)あるいはパネース(Φανης、顕現する者)と同じものとも考えられた。」とされる。
これが後に、フリーメーソンの秘教の源流の一つとなるように、テーバイ王家の支配時代の偉大な神々は、古典期にはアテーナイによって、徹底的に卑小化されたようである。
ある時期まではオリュンピアでも二本笛の競技が存在したし、
スパルタ軍の強さは、その木笛と歌による規律正しい行軍と戦闘にあったことも注目に値する。
第二項 アポローンの竪琴音楽集団の導入
勝者が敗者を思うがままに処分するという条件に同意した後、勝負が行われるやアポローンは竪琴を逆にして競技に加わり、マルシュアースに同じようにすることを命じた。
彼にはできなかったので、アポローンが勝者と判定された。彼はマルシュアースを一本の高い松の木に吊して、その皮を剥いで殺した。
第三節 デーロスの王 オーリーオーン
第一項 オーリーオーンの出自
デーロスにおいてアルテミスはオーリーオーンを殺した。
人は彼が大地より生れ、その身は巨大であったと言っているが、ペレキューデースは彼をポセイドーンとエウリュアレーの子であると言う。
ポセイドーンは彼に海上を闊歩する力を授けた。
オーリーオーンの出自の仮説は「大地より生れ」つまり、「生え抜き」の元祖ジモティー。
別説は、ペレキューデースの説で、「ポセイドーンとエウリュアレーの子」。
ペレキューデースによるとエウリュアレーはミーノースの娘ということである。またエウリュアレーという名前は、ゴルゴーンの一人である。つまりフェニキア系ということになろう。
「ポセイドーンは彼に海上を闊歩する力を授けた。」とは航海力を意味する。
彼は先ずヘーラーが美しさを女神と競ったという廉で地獄に投げ込んだシーデーを妻とした。
その後キオスに行ってオイノピオーンの娘メロペーに求婚した。
最初の妻はシーデーである。
シーデー(Σίδη)とは柘榴の意味である。いうまでもなく豊穣のシンボルである。
注目すべきはベーロスの妻の別説である。
アポロドーロスは、アイギュプトスとダナオスの運命の双子の父親であるベーロス(バアルから由来と思われる)の妻はマイナーなニンフのアルキノエーである。
しかし、七世紀の年代記作者アンティオキアのヨハネによると、このシーデーこそが、ベーロスの妻でありシドンの名祖であるという。
シーデーが地獄(タルタロス)に去ったということは、柘榴が冥界の植物であることと深い関係がありそうである。地下鉱物=富=柘榴これらは、フェニキア人の富と関係が深い。
シーデーはペルセポネーに発展した神格ではあるまいか。
オーリーオーンもフェニキア系の先住民の王であったという仮説をこの出自は強化する。
もしくは、オーリーオーンは「生え抜き」の王で、フェニキア系のシーデーと婚姻によって結びついたと解される。ヘーラー=イーオーであるから、ヘーラー(フェニキア人)=シーデーと解してよかろう。
第二項 オーリーオーンのキオス遠征
その後キオスに行ってオイノピオーンの娘メロペーに求婚した。
しかしオイノピオーンは彼を酔わせ、眠っている間に彼を盲目とし、海辺に棄てた。
しかし彼はヘーパイストスの鍛冶場に行き、一人の子供を奪って肩に乗せ、太陽の昇る方向に導くように命じた。
そこに到着して太陽の光線によって治癒せられて視力を回復し、大至急でオイノピオーンにむかって道を急いだ。
オイノピオーンはキオス島を支配していた同じくフェニキア系の領主だったのだろう。
デーロス島で生まれたオーリーオーンは、同族の支配する島嶼の征服遠征にでかけたようだ。
第四節 オーリーオーンのキオス遠征失敗とデーロス島帰還
しかしポセイドーンが彼のためにヘーパイストスによって作られた家を地下に用意せしめた。
ポセイドーンは、オーリーオーンの父であるとともに、オイノピオーンを守護する。
オイノピオーンとは何者だったのか?
オイノピオーンとは何者か?
「ディオニューソスはアリアドネーをレームノス島に連れて行ったので、オイノピオーンとその兄弟はレームノス島で生まれた」(アポロドーロス「摘要」1・9)
テーバイ王家のディオニューソスとクレタ王家のアリアドネーの結合から生れたフェニキア人である。しかもフェニキア人の秘教カベイロイの秘儀のメッカ、レームノス島生れ。
「成長したオイノピオーンは息子たちを連れてクレタ島からキオス島に移住した。」(パウサニアス「ギリシア案内記」七巻4・8)
つまり大人になったオイノピオーンは、キオス島に移住して、キオスの王となった。
ちょうどこのころオーリーオーンがやってきたのだろう。
「小アジアの沿岸地域の多くを支配していたラダマンテュスからキオス島の支配権を与えられた。」ともいわれる。(シケリアのディオドーロス『神代地誌』5巻)
ミーノースやラダマンテュスによるキュクラデス諸島の制覇は、クレタ島のフェニキア人たちが、島々を征服していた歴史を投影しているのだろう。
というわけで、ポセイドーン(フェニキア人のバアルを投影)は、オイノピオーンを守護したわけだ。
オーリーオーンもポセイドーンの子だから同族というわけで、両方を守ったと解される。
もしくは、オーリーオーンは「生え抜き」であったという説の方が整合性があるかもしれない。
曙がオーリーオーンに恋して彼を掠い、デーロスに連れて来た。
これはオーリーオーンがデーロスを占拠していた前提条件の捏造である。
つまりオーリーオーンは、デーロス島に初めて植民したアステリアーの子孫の「生え抜き」の王であったのだろう。
だから、デーロス島に来たのではなく、帰還したのである。
第五節 アルテミス教団によるデーロス島征服
第一項 オーリーオーンの権能の掠奪
オーリーオーンは、一部の人々はアルテミスに円盤技の競技を挑んだために滅ぼされたと言い、
オーリーオーンは、狩猟が得意であった。その権能を、侵略者アルテミス集団は盗んだのである。
第二項 アルテミス教団による宗教革命
またある人々はヒュペルボレイア人の所より来ていた乙女の一人オーピスを暴力を以て犯したためにアルテミスに射られたのであると言っている。
この事件の背景はこうであろう。
デーロス島は、アステリアーの子孫のオーリーオーン王が平和に治めていた。
新興宗教も自由に受け入れていた。
そこへ、エウボイア島を縦断し、同島のムーサの信者やオーケアノス系のリビアから植民していたアムピトリーテーとトリートーンなどの信者たちを粉砕し、アンドロス島、テーノス島と飛び石を踏むように航海して、デーロス島に上陸した。
アポローン信徒は、ヒュペルボレイア人にその起源を発し、小アジアでアルテミス信徒と合流して、ギリシア本土をボイオティアからエウボイア島を経由して、デーロスに到達したのであろう。
はじめは平和的に共存していたが、すぐに攻撃的なアポローン・アルテミス教団は、地元のアステリアーの教団を粉砕し、乗っ取ったのだろう。
第六節 アムピトリーテーとトリートーン
ポセイドーンはオーケアノスの娘アムピトリーテーを妻とした。
そして彼にトリートーン、および太陽が妻としたロデーが生れた。
ポセイドーンの妻が実はネーレイデスのアムピトリーテーであるのに、ここではオーケアノスの娘、オーケアニデスとされているのはなぜか?
おそらくアムピトリーテーとトリートーンは、リビアのプロト・カルタゴ人が植民して、カドモス一統が植民する前の先住民となっていたようだ。
それがわかるのは、パウサニアスの『ギリシア案内記』のボイオティアの第9巻である。
[9.20.3] There is in Tanagra the tomb of Orion, and Mount Cerycius, the reputed birthplace of Hermes, and also a place called Polus.
タナグラのケリュキウス山(現タナグラ山)には、オリオンの墓がある。
またヘルメスの生誕地とされている。
これは、アルカディア生れのヘルメスが実はボイオティア生れである可能性を示唆する。
またオリュンポスの子オーリーオーンは、ボイオティアの「生え抜き」先住民であり、タナグラからエウボイア島に渡り、南下して、デーロスに進出したのではないかと想定される。
the women of Tanagra before the orgies of Dionysus went down to the sea to be purified, were attacked by the Triton as they were swimming, and prayed that Dionysus would come to their aid.
The god, it is said, heard their cry and overcame the Triton in the fight.
ディオニュソスの信者に成る前のタナグラの女性たちが、聖なる水域で泳いでいたところ、突然、トリトンに攻撃された。
女たちはディオニュソスに祈って助けを求めた。その叫びを聞いたディオニュソスがトリトンと戦って殺した。
[9.20.5] The other version is less grand but more credible.
the Triton would waylay and lift all the cattle that were driven to the sea.
even to attack small vessels, until the people of Tanagra set out for him a bowl of wine.
he came at once, drank the wine, flung himself on the shore and slept, and that a man of Tanagra struck him on the neck with an axe and chopped off his head.
別説はさほど人口に膾炙していないが、こっちの方が信用できる。
トリトンは家畜たちを海に追い込み、彼のために献酒したワインのボウルまで海に投げ落とした。
しかしまたやってきてワインを呑んで寝てしまった。
タナグラの人々はトリトンの寝首をかいた。
The Tritons have the following appearance.
The rest of their body is rough with fine scales just as is the shark.
but the mouth is broader and the teeth are those of a beast.
have hands, fingers, and nails like the shells of the murex.
and belly is a tail like a dolphin’s instead of feet.
トリトンは次のような容姿をしている。
人間の顔だが、口は大きく、獣のような歯をもっている。
ミューレックス貝のような爪をもった手をもち
脚の変わりに海豚のしっぽのような下半身をしている。
つまりアムピトリーテーの子トリートーンは、後発のカドモス一統のディオニューソス教団によって、すでに怪物化されていたのである。
[9.22.1] XXII. Beside the sanctuary of Dionysus at Tanagra are three temples, one of Themis, another of Aphrodite, and the third of Apollo;
ディオニュソスの神域には三つの神殿が立っている。
テミス、アプロディテとアポロンである。
(最初はリビア人=プレ・カルタゴ人のトリトン、次にテーバイ人のディオニュソスが導入され、最後にアポロンが導入された。)
おそらく、テーバイ王家はディオニューソスとアポローン信仰を採用したが、古いトリートーン信仰は凌駕されたのだろう。
なぜ、このアムピトリーテーの話が、唐突に、このデーロス島縁起の第五節に組み込まれているのかという謎が解ける。
つまり、このアムピトリーテー・トリートーン母子は、オーリーオーン同様、アポローン・アルテミス教団の通り道に当り、その過程で粉砕された信仰集団だったからではあるまいか。
ボイオティア(Boeotia)
立地は、北は友好的なテッサリア、西は友好的はエウボイア島、南は不倶戴天のアッティカ、西は敵国ポキスとなっている。
山は、西のパルナッソス山、南西のヘリコン山、南のキタイロン山である。
キタイロン山の北麓にプラタイアがあり、テーバイはかなり北に位置する。
パルナッソス△:ポキスのデルポイは、パルナッソス山の麓にある。
ヘリコン△:ポキスとボイオティアの境にある。南麓にティスベ市。
キタイロン△:北麓にプラタイア市。
ケピソス河:北を西から東に流れ、コパイス湖の北のオルコメノスでコパイス湖に注ぎ、イリキ湖を経て、海に注ぐ。アッティカにも同名のケピソス河がある。
アソポス河:南を、東のタナグラの北からプラタイアのすぐ北を通って、コリントス湾に注ぐ。
コパイス湖:湖のコパイス湖は、19世紀に排水され、イリキ湖(現ユリキ湖)に吸収された。
神話
ヘリコン△からテスピアイ市を経てテーバイ(カドメイア)の地域に集中。
ムーサたち:ヘリコン山に棲む古い詩神。
エロス:テスピアイの古い豊穣の神。エロスとアンテロスの神殿。同性愛のメッカ
ナルキッソス(水仙):テスピアイの狩人。
カドモス:カドメイア(テーバイ市の建設者。テュロス人)
ディオニューソス:テーバイ王家のセメレの息子。
イーノーとメリケルテース:テーバイ王家の王族。航海の神。ヘーラーとヘーラクレースへ。
オイディプース:テーバイ王家の英雄で伝説の王。
ヘーラー:プラタイアイに聖婚伝説
第五巻 デーメーテールの秘儀の導入
第一節 デーメーテールの上陸
第一項 プルートーンのコレー誘拐
プルートーンはペルセポネーに恋し、ゼウスの助力を得て彼女を密かに奪った。
デーメーテールとコレーの秘儀すなわちエレウシースの秘儀のギリシア上陸のキッカケが、プルートーンであるということは、何を意味するか。
これは、プルートーンとペルセポネーの冥界勢力圏は、エレウシースの秘儀の上陸に先立って、ギリシア本土に成立していたということである。
第二項 デーメーテールのコレー探索の旅
デーメーテールは夜となく昼となく炬火を手にして彼女を求めて全世界をめぐった。
世界を親族を探して経めぐる神話は、カドモスのイーオー探索の神話と酷似している。
デーメーテールをギリシア本土に招来したのは、フェニキア人(カドモス一統)であるということを暗示する。
第三項 エレウシースを拠点に
ヘルミオーンの人々よりプルートーンが娘を奪ったことを知って、神々に対して憤怒し、天界を捨てて身を一婦人の姿に変じ、エレウシースにやって来た。
エレウシースは、メガリスとアッティカの境界である。
デーメーテールとは、エジプトのイシスのギリシア・バージョンである。
しかしイシス・オシリスの秘儀は、大女神と夫=植物の精たる若い男神=神官王のパターンであるのに対し、地下女神の秘儀(デーメーテールとコレーの秘儀)は母・娘の秘儀である。
これは、導入に際して、テーバイ王家が、プルートーンとペルセポネーの冥界支配と結びつけて、イシス信仰を導入したからであろう。
デーメーテールとコレーもシケリア島では地下女神たちと呼ばれるように、地下の豊穣の女神であり、秘教の女神である。
デーメーテールとコレーは同一視できるので、コレーとペルセポネーを習合させることで、エレウシースの秘儀を成立させたのであろう。
この二柱の女神たちの崇拝は、男子禁制の祭もあり、女性のためのものとして出発したのかもしれない。
それからその時のエレウシースの王であったケレオスの所に赴いた。
ケレオスの妻メタネイラに一人の子供があって、これをデーメーテールが引き取って育てた。彼を不死にしようとして夜な夜な嬰児を火中に置き、必滅の人の子の肉を剝ぎとろうとしていた。
デーモポーンはーこれが子供の名であったがー日毎に驚くほど成長したが、プラークシテアーが見張っていて、火中に入れられているのを見つけて大声をあげた。それがために嬰児は火に焼きつくされ、女神は本身を顕わした。(メタネイラの誤訳か)
この神話は、デーメーテールが、ギリシア本土上陸後すぐに、エレウシースに向った。
そして当時のエレウシースの王であったケレオスの家の乳母のようになり、その嬰児の世話をした。
しかし、不死にするところをケレオスの妻に見つかり、嬰児は焼死した。
という経緯の神話である。
これは後に、アテーナイに、ペイシストラトス一党によって、エレウシースよりこの秘儀と神官集団が招来されたため、エレウシースがこの秘儀のギリシア本土での発祥とされるに至ったのであろう。
第四項 テスモポリア祭
そして先ずカリコロン(美しき舞)という井戸の側の彼女にちなんでアゲラストス(笑いなき)と呼ばれる石の上に坐った。
カリコロンの井戸は、エレウシースの遺跡に存在する。
冥途の河に比するケピソス河にかかった橋をわたって神域に入るようになっている。
そのゲートにこの井戸の遺構がある。(『古代ギリシア遺跡事典』P94-95参照)
その時イアムベー(諷刺)なる一老女が戯談を言って女神を笑わせた。これがためにテスモポリア祭で女たちは嘲罵をたくましくするのであると言うことである。
もちろん、この老女は、イアムベー(諷刺)の言葉が先で、そこから作られた人格であろう。
テスモポリア祭のでの嘲罵の祭儀を後付けで説明したものだろう。
つまり、テスモポリア祭では、女たちが羽目を外して、日ごろのうっぷんを思い切り晴らしたため、
ネットの5チャンネルのようなシニカルな笑いを含む罵倒の応酬の井戸端会議戦争を行なったのかもしれない。
特に、ペイシストラトス一党が、エレウシースの秘儀を導入したのは、男尊女卑の強かったアテーナイの女性たちをねぎらう意味もあったのだろう。
〔註〕Thesmophoria祭は十月の候にアテーナイその他の地で行われた、デーメーテールを主神とする女ばかりの祭。
この祭を生き生きと描いているのが、周藤 芳幸『物語 古代ギリシア人の歴史~ユートピア史観を問い直す~』である。この本は最高、全盛期のペリクレス支配のアテーナイがどんなに男尊女卑であったかがわかる。その第六章「「姦通事件」の二つの顔」に、その様子が生き生きと描かれている。
そのような息の詰まる生活に一条の光が差し込んできたのは、テスモフォリア祭という祭典に参加したことがきっかけでした。このお祭りは、毎年秋に女性だけによって「掟を授けるデメテル女神」のために行われるものですが、アテネの中心市だけではなく、それぞれの村でも独自のお祭りが開催されることになっています。
しかし、そのような迷いは、会場である村のデメテル神殿に出かけてみると、たちまち霧散してしまいました。木立のあいまには天幕が張られ、あちこちから賑やかな歌と笑い声が聞こえてきます。気後れした私が、どうすればいいのか分からないまま木陰に 佇んでいると、年配の朗らかな女性が、こちらへいらっしゃいと、私を手招きしました。彼女は、自分がついさっき今年のテスモフォリア祭の女神官に選出されたばかりであることを説明すると、気さくに私のための席を用意してくれたのです。
第二節 トリプトレモスとは誰か?
第一項 トリプトレモスは捏造された根なし草
しかしメタネイラの子供の中での兄であるトリプトレモスに有翼の竜の戦車を造ってやり、小麦を与えた。
彼は空を飛んで人の住んで切るすべての地にこれを播いた。
トリプトレモスという嬰児の兄に小麦を伝えたことになっている。
しかしパニュアッシスはトリプトレモスはエレウシースの子であると言っている。というのはデーメーテールは彼の所に来たのだと主張しているからである。
ペレキューデースは、しかし、彼はオーケアノスと大地の子であると言う。
つまり、トリプトレモスの素性が錯綜する。
ペレキューデースは、「オーケアノスと大地の子」、すなわち「生え抜き」と想定し、
パニュアッシスは、エレウシースの子と想定する。(エレウシースはあきらかに作られた名祖であろうから)根なし草である。
最初の説は、ケレウスの子であるという。
つまり根なし草トリプトレモスが、エレウシースの王ケレウスにアドプションされたと想定される。
第二項 本来のエレウシースの王家とは?
神話時代には、アテーナイ王エレクテウスと戦ったエレウシース王は、エルモルポスであった。
つまり、エレウシースの秘儀は、エレウシースでは、エルモルポスに伝えられたとみるのが妥当であろう。
アテーナイにエレウシースの秘儀を導入したのは、僭主ペイシストラトスである。
その時は、エレウシースの本来の王エルモルポスとその息子ケーリュクスの子孫から成る二つの家系
「エルモルピダイ」および「ケーリュクス」が秘儀を司っていた。
第三節 プルートーンとペルセポネーの冥界勢力圏の成立
第一項 コレーとペルセポネーの習合
ゼウスがプルートーンに乙女を地上に帰せと命じた時に、プルートーンは彼女が母の側に永く留まらないように、彼女に柘榴の粒を食べるようにと与えた。
デーメーテールの娘コレーは、冥界で(柘榴)を食べて、冥界の女王ペルセポネーとなる。
柘榴はテーバイ人(カドモス一党)の主女神ヘーラーと縁深い植物である。富の象徴である。
つまり、ペルセポネーはヘーラーの冥界での投影と言える。
ちなみにイシス=デーメーテール=ヘーラーと習合したと思われる。
エレウシースの秘儀となったデーメーテールとコレーの秘儀を、ギリシアに導入したのは、ボイオティアのカドメイアに君臨するテーバイ王家(ギリシアの帝室)であろう。
なぜなら、エレウシースの秘儀は、エレウシースに上陸したのではなく、カドモス一党によって、ボイオティアからもたらされたらしいからである。
ペルセポネーはしかし毎年の三分の一はプルートーンとともに、残りの時は神々のもとに留まることを強いられた。
ペルセポネーがフェニキア人と考えられるのは、後に、彼女が、フェニキア人女神アプロディーテーの植物の精=神官王のアドニスに手を出していることからもわかる。
第二項 エレウシースの秘儀のボイオティアから輸入
周藤 芳幸『物語 古代ギリシア人の歴史~ユートピア史観を問い直す~』この神本が、ここでも力を発揮する。
この事件をめぐって気がかりなことは、アリストゲイトンとハルモディオスがともにゲフュライオイという特定の氏族の一員だったらしいことである。
この氏族は、デメテル・アカイアという女神を信仰しており、この女神がアッティカ以外ではボイオティアでしか確認されないことは、彼らが実際にボイオティアからの渡来氏族だったことを示している。
僭主殺害者として有名なホモ・カップルのアリストゲイトンとハルモディオスは、フェニキア人の帰化氏族ゲフュライオイであった。
そして彼らは、ボイオティアから帰化し、デメテル・アカイアの信仰をもっていた。
おそらくペイシストラトス一党は、このフェニキア人一族と親しい間柄にあったはずだ。
おそらく彼らを帰化させたのはペイシストラトスであっただろう。
もちろんこのホモカップルが、僭主ヒッピアスの弟ヒッパルコスを暗殺したのは、単なる準同族間の内輪もめであっただろう。
それを、アルクメオン家が「僭主殺害事件」にでっちあげたのである。
第六章 ギガントマキア
ティーターンとの戦いティタノマキアと混同しそうだが、ティタノマキアは、ゼウスとクロノスの支配権争いであり、
ギガントマキアは、ゼウスの支配権が確立してからの巨人族との戦いである。
ティーターンたちが、ゼウス世代の先代に当るギリシア本土の先住民を投影しているのに対して、
ギガースは、トラキア経由でギリシア人が逆に小アジアへ、逆侵略をかける遠征を投影したものかもしれない。
ギガースは、大地の子であり、トラキア地方の「生え抜き」の人々を投影しているのかもしれない。
ただ、両足が竜(蛇)になっているので、先住民、それもフェニキア系を投影している可能性もある。
このギガントマキアは、神々と人間の代表たるヘーラクレースとの共闘である。
そうした場合、神々はアイオリス系をヘーラクレースはフェニキア系を投影しているのかもしれない。
問題は、ヘーラクレースをゼウスがアテーナーを通じて味方にしているところである。
ヘーラクレースはヘーラーの子なので、アテーナーとは実は不倶戴天の敵、
アテーナー=メーティスは、ダナオイ人の、ヘーラーはテーバイ人の主女神で、
メーティス=アテーナーは、粉砕された先妻で、ヘーラーはゼウスが婿入りしたギリシア本土の女王である。
後にペルシア戦争を経て、アテーナイが強大になると、神話を書き換えた。
そして、ホメロスはじめあらゆる神話に、下品なアテーナーがしゃしゃりでるようになったといえよう。
参照 アテーナイに偏る神話の捏造について
『物語 古代ギリシア人の歴史~ユートピア史観を問い直す~』の第一章に、次のような解説がある。
メイグズとルイスという二人の研究者が編纂した『ギリシア歴史碑文選集』という本がある。 その一番から五番(前八世紀末から前七世紀)までの碑文の発見地を列挙すると、順に、イスキア島(イタリアのナポリ沖)、クレタ島、タソス島(第三章参照)、コルフ島(イオニア海)、キュレネ(リビア、ただし碑文そのものの年代はずっと下る)となる。
つまり、このなかにはギリシア本土の都市は、一つも含まれていない。
たとえば六〇番台(前五世紀後半)を見ると、一点を除いてそれらの碑文はすべてアテネに由来し、七〇番台(同)も、二点を除いてすべてアテネの碑文である。
古典期のギリシアについての情報が著しくアテネに偏っている(この史料状況によって規定されたアテネ中心主義をいかに克服するかは、ギリシア史の大きな課題となっている)のに対して、
つまり周藤先生が、『ギリシア歴史碑文選集』を精査された結果、前八世紀から前五世紀後半までは、島嶼(すなわち当時はフェニキア人の勢力範囲であった)が先進地域であったということだ。
しかるに、ペルシア戦争で台頭したアテーナイが、ギリシア神話をアテーナイ中心に捏造したのであろう。
参照 マグナグラエキアについて
ギリシアにおける社会の基礎的な単位であるポリス(都市国家)が誕生した前八世紀後半は、ギリシア人がイタリア南部やシチリア島に進出を始めた時代にあたっていた。しかし近年では、ポリス形成と植民活動とは分けて考えることができないという立場が有力になっている。
つまり前八世紀からギリシア本土とマグナグラエキアは別々に発展した。
本土は、アイオリス人のヘレンの子孫とされ、ヘレネスと総称される。
アテーナイ人は、ダナオイ人といいたいところだろうし、アカイア人はアカイアと総称したいところだっただろう。
最初にギリシア本土に上陸したダナオイ人は、後発のカドモス一党によって、アッティカの狭い部分やアルゴスなどに閉じ込められたようだ。
カドモス一党は、アイオリス人と友好関係を築き、ギリシア全土の大部分を制覇しただろう。
もっとも遅く南下したアカイア人は、短い間しかギリシアを支配できず、すぐにテーバイ帝室のヘーラクレイダイによって逆征服され、アルカディアに遁れてその勢力は、縮小された。
ヘレンという人格が単に名祖として作られたものであることは容易に理解できる。
これをアイオリス人に結びつけたのは、フェニキア人としたくなかった誰かであろう。
ヘレネス、ヘーラー、ヘーラクレース、これはカドモス一統の所属であるのだ。
マグナ・グラエキアの初めての都市キュメ、後にラテン語でクーマエ、シビラの神託で有名な都市の建国者は、エウボイア島のカルキス人とされている。
しかしカルキスは、ボイオティアとエウボイア島の境界の地峡に位置する。
そしてギリシア人の名祖は、ボイオティアのグライアという都市である。
エウボイア島のカルキス人もフェニキア人の可能性が高いが、
西地中海でギリシア人といえば、ボイオティアのグライア人のことであったのだ!
ソースは、トゥキュディデス『歴史 上』P439の註の以下の部分である。
〔註〕ヘラスとはギリシア人がギリシアを呼ぶ名前。
ギリシアはイタリア人がボイオティアのグライアという一地名からヘラス全体を指して呼んだ名である。
前一〇〇〇年頃にギリシア人はイタリアのキュメに植民都市を建設したが、その人々の中にボイオティアのグライアから来た一群があって、最初にグライア人に逢ったイタリア人はその名で他のヘラス人も呼ぶようになった。
第一節 ギガントマキアのはじまり
第一項 ギガースたちとは何者か?
大地はティーターンたちのために憤って天空によって巨人たちを生んだ。
ギガースたちは、天空と大地の子供たち、ゼウスの上の世代でクロノスを嫡子としてうまれたティーターンたちの弟妹集団である。
ティーターンたちは、格が高い神々であり、こちらも巨人族と訳されるが、神々の直系である。
ティタノマキアによって、半分はクロノスとともに滅ぼされ、タルタロスに投げ込まれたが、半分はゼウスに味方し、手工業者や傭兵集団を形成する。
ギガースたち(ギガンテス)は、出自は天空と大地の子供なので、ティーターンたちと変わらないはずであるが、およそ神々の容姿はしておらず、怪物である。
身体の巨大なことでは彼らを凌駕するものなく、力においては無敵、姿は見るも恐ろしく、頭と顎より濃い毛を生やし、足は竜の鱗よりなっていた。
つまり、ティーターンは巨大であったりしても、人間の容姿をしており、
ギガースは、あんよがとぐろを巻いた蛇であるのだ。
一説では彼らはプレグライに、また一説によればパレーネーに生れた。
彼らは、トラーキアのパレーネー(パレネ半島)生れである。
つまり、トラーキア人が投影されているのだ。
ティーターンたちは、フェニキア人が投影されている。
しかし、あんよが蛇というのは、フェニキア人も混じっているか?
第一項 神々とは?人間とは?
巨人たちはいずれも神々によっては滅ぼされ得ないが、誰か人間が味方となれば退治されるという予言があった。
この一文の示唆するところは、神々と人間は、別々の強さを持っていることである。
しかしゼウスは、・・・ヘーラクレースをアテーナーを通じて味方に招いた。
人間の代表格が、ヘーラクレースである。(フェニキア人)
神々の代表のゼウスは、人間と条約を結ぶようにして共闘している。
ゼウスとアイオリス人を投影しているとすれば、神々がフェニキア人を投影している。
アテーナーが英雄と親密であるのは、英雄をもたない(人格劣悪でしかもよそ者=アカイア人のテーセウスしか持たないアテーナイ人が、テーバイ人の大英雄ヘーラクレースを盗んでアテーナーと親密に捏造したのである。
ヘーラクレースは、その名のとおり、テーバイとその発展的帝国のアルゴス・スパルタの主女神ヘーラーの息子にして婿なのだから。
彼は先ずアルキュオネウスを矢で射た。大地に斃れると彼は再び以前より元気を取り戻した。しかしアテーナーの言によってヘーラクレースは彼をパレーネーの外へ引きずって行った。かくして彼は死んだ。
ヘーラクレースはフェニキア人なので知能が高い。12功業は脳筋では成し遂げられぬ仕事である。
アテーナーが知恵を盗んで、ヘーラクレースを脳筋に捏造したのはアテーナイ人である。
ついでに、テーバイ人の軍神(カドモスの舅)であり、スパルタの軍神であるアレースが、脳筋で弱っちいなさけない軍神に仕立て上げたのも、アテーナイ人である。
アレースは、竜を生んでいるし、ディオスクロイも蛇と関連する。カドモスとハルモニアーも蛇になっており、フェニキア人統治時代のデルポイの支配者もピュートーンも蛇である。
フェニキア人は、蛇と縁が深い。
野蛮なものはトラーキア生れにされるが、アレースもトラーキア生れとされているが、フェニキア人の軍神であった可能性も高い。
フェニキアには、アシュタルテ女神やメルカルト(ヘーラクレース)も軍神であるが、アレースも、
ハンニバルとピリッポス五世の条約に「アレス、トリトン、ポセイドン」として言及されてる。
これから察するに、プロト・カルタゴ人の軍神だったのかもしれない。
カドモスがテュロスから入植した時、メッセニア、ラコニア、アルカディア、ボイオティアまで、プロト・カルタゴ人が入植していた可能性が高い。
カドモスが彼らを制圧した事件が、カドモスの竜退治に投影されているのだろう。
フェニキア人同士、すぐに共存共栄を計ることになり、アレース(プロト・カルタゴ人のリーダー)は、娘(プロト・カルタゴ人×テュロス人から生れた)ハルモニアをカドモスが娶ったのだと推定される。
第二節 ギガースたちの征伐
第一項 ヘーラーとヘーラクレースの共闘
一方ポルピュリオーンはヘーラクレースとヘーラーに戦いを挑んで立ち向かった。
しかしゼウスがヘーラーに対する欲情を彼に起さしめた。彼が女神の衣を引き裂いて手籠めにせんとした時、援けを求めて呼んだ。
ゼウスが雷霆を投じ、ヘーラクレースが射た。
ここでヘーラーとヘーラクレースが一心同体に扱われているのは正しい。これはフェニキア人(カドモス一党)を投影しているだろう。
このときフェニキア人を助けるゼウスは、アイオリス人(オリュンポス周辺に勢力を張る)テッサリア人を投影しているかもしれない。
第二項 パラス・アテーナーの語源
アテーナーは逃げるエンケラドスの上にシシリ島を投げつけた。
またパラースの皮を剥ぎ取って、それで以て戦闘の際の自分の身を鎧った。
パラースは、アテーナーに惨殺されその生皮を剥がれた、トラーキア人を投影か。
アテーナーはダナオイ人である。
アテーナーこそ野蛮な特徴がある。その起源は、トリトニス湖畔=コーカサスのアマゾンである。
エジプトのネイトも習合しているが、この残虐な神格に、スキュタイ人のようなアマゾンに投影された種族の女性が混入しているこのは確かである。
討ち取った敵の生皮を剥いで携帯するのは、ヘロドトス『歴史 中』P46の第四巻64章に、
「またスキュタイ人の中には、剥いだ皮を羊飼いの着る皮衣のように縫い合せ、自分の身につける上衣まで作るものも少なくない。」とある。
アテーナーのこの所業は、まんまスキュタイ人のこの蛮習に符合する。
またアポローンのマルシュアースの生皮剥ぎも同様である。
野蛮なのはどちらだと言いたくなる。
マルシュアースやパラースやメドゥーサの方が、高度で平和的な文明人だったのである!
エンケラドスは、「大音響を鳴らすもの」で、火山など自然災害の投影かと見られるが、
アテーナーにいじめられたエンケラドスは、土星(サターン)の衛星の名前になっており、
太陽系が滅びたあと、つかの間の楽園を演出するかもともいわれている衛星の名になっている。
第三項 ハーデースのかくれ帽子
ヘルメースは地獄の王の(かくれ)帽子をかむってこの戦闘にヒッポリュトスを殺し、
ハーデース(Ἅιδης)であるが、またの名をプルートーン(富める者)という。
地下資源を持っているからである。
このかくれ帽子、かくれ兜であるが、ヴァーグナーが取材した北欧神話のシグルズ(ジクフリートの原型)の竜殺しの話にも出て来る。これらの神話の原型は、フェニキア人(ギリシア人)の神話であろうことは明らかであろう。つまりカドモスの竜退治である。
ハーデースは、冶金術に長けたフェニキア人に由来する神であろう。ハーデースは、フェミニストで女性の権利を認めている。
第三章 テューポーンとの戦い
第一項 テューポーンとは?
神々が巨人を征した時、大地はさらに怒ってタルタロスと交わり、キリキアにおいて人と獣との混合体であるテューポーンを生んだ。
テューポーンは、ティーターンたちやギガースたちのように大地と天空の子供ではない。
大地とタルタロスとの子供である。そして多くの眷属がいるのではなく単体である。
父親のタルタロスとは、アポロドーロスではその生誕は描かれておらず、すでにある。
それは〈奈落そのもの〉であり、人格ではない。神々の牢獄である。
その生誕は、現存し捏造を受けていない、事実上最古の神話であるボイオティア生まれの詩人ヘーシオドスの『神統記』に描かれている。
ヘーシオドスによれば、最初に生れたというより自然発生的に「生じた」のは、
カオス(混沌)と、ガイア(大地)と、タルタロス(奈落)であった。
ガイア=ゲー(アポロドーロスの)である。
ガイアは、のちにウラノス(天空)を生んで、この自分の子と契って、さまざまなものを生む。
カオスとタルタロスは、まったく非人格的である。それゆえ、一層高度で原初的である。
だから、テューポーンは、ティーターンたちやギガースたちより、遥かに原初的で、高尚な神と言えよう。
彼はその大きさと力において大地が生んだすべてのものに優り、
腿までは人の形であり、・・・腿から下の部分は巨大な毒蛇のとぐろを巻いた形になっていて、・・・
基本、ギガースと同じで、両のあんよがとぐろを巻いた蛇になっている巨人である。
それだけでなく、「彼の手は・・・百の竜の頭がそこから出ていた。」のようで、手から無数の蛇がでていたことになっており、つまり蛇だらけ。
第二項 テューポーンの正体
ゼウスは、・・・遁げるをカシウス山まで追って行った。この山はシリアに聳えている。
この一文は、テューポーンの故郷は、カシウス山のあるシリアであるということを諮らずに明かしている。つまり、フェニキア人の主神バアルが棲むというあのカシオス山なのだ。
つまりテューポーン=バアルということであろう。
神の故郷の法則
神話で生誕の地とされる場所は、その神が伝来した着地点であり、真実の故郷は、後に赴く場所であるという法則が存在する。
この法則は、たとえばアポロンの故郷は、生誕地とされるギリシアのデーロス島ではなく、生れてすぐ赴くヒュペルボレイア人の地である。
アプロディーテーは、生れたキュテラ島ではなく、そのあとで赴くキュプロス島のアシュタルテである。
ヘーラーの故郷もサモス島ではない。
それはボイオティアのキタイロン山麓にあるプラタイアの「聖婚伝承」が示唆している。
ヘーラーは、ボイオティア地方に上陸したフェニキア人のカドモス一党の最高神であったと思われる。
ギリシア随一の英雄ヘーラクレースもテーバイで養育されている。
ヘーラクレースとヘーラーはテーバイ王家の神格なのだ。
サモス島は、フェニキア人の植民地であり、それゆえ、われらが女神の生誕地と捏造したのであろう。
ヘーラクレースもアルゴスで生まれたことになっているが、テーバイで行き、テーバイで育つのである。
テューポーンはとぐろを巻いてゼウスをしっかとつかみ、鎌を奪って手と足の腱を切り取り、両肩に載せて海を越えて彼をキリキアーに運び、着いてからコーリュキオンの岩穴中に押し籠めた。
ゼウスとテューポーンは戦いながら、フェニキアのカシウス山から、小アジア半島のキリキアに移動した。
ゼウスは再び自分の本来の力を得て、・・・(テューポーンは)
トラーキアの地に来たり、ハイモス山で戦闘中にその全山脈を持ち上げた。
今度は、トラーキアのハイモス山麓までやってきた。
シシリ海を越えて遁走し始めた時に、ゼウスがシシリのエトナ山を彼の上に投げつけた。
これは巨大な山であって、その時より今日にいたるまで投げられた雷霆より火が噴きあがっているのであるということである。
しかしこの話はこれで終わることにしよう。
驚いたことに、決着がつかず、シケリア島で、テューポーンとの戦いが終わる。
テューポーンとは一つの神格ではなく、一つの巨大な勢力の集団。
カシウス山麓に生れ、小アジアからトラーキア経由で、ギリシア本土へ、そこからシケリア島まで進出した征服し続けているフェニキア人の総称を投影しているのであろう。
テューポーンも神々もフェニキア人の投影である。

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