第二章 オリュンポスの神々(一) 天界の諸神
オリュンポスで暇ぶっこぐ神々
ホメーロスには、ゼウスを初め諸々の神たちが、オリュンポスの頂上に、青銅を敷く宮居に絶えない饗宴の日々を送るさまが謳われている。
オリュンポスの住居の意味:アイオリス系の神話
ギリシアでもほとんど最北に位するテッサリアとマケドニアの境のオリュンポス山上がその住居に選ばれたのは、単にそれが時じくの雪を頂き、・・・高山であるのみならず、ギリシア民族がもと北方の山地に居住し、またギリシア神話の基礎を直接形づくった叙事詩人らの流派が、その頃テッサリア、ボイオーティアなど北ギリシアで育成され発達したことを物語るに違いない。p89
ホメロスが前8世紀末の叙事詩人だとすれば、オリュンポスの山上で、一同に会してひまをぶっこぐパンテオンを描いたとは思われない。
このパンテオンは、前六世紀のアテーナイでペイシストラトス治下編纂された時に挿入されたものであろう。
もちろん、ピュロスのネストルの子ペイシストラトスも、あとから挿入の可能性が高い。
ゼウスを主神とするならば、ゼウスはクレタ島で生まれており、エーリス地方にヘーラー女神の婿殿として上陸した神格であり、イリュリア地方から上陸しているようでもあり、テッサリアとは地縁がない。ゼウスとヘーラーは、アイオリス系のチャンピオン・アイオロス王家が、共闘したテーバイ帝室系の神であるからだ。
第一節 ゼウス大神
ゼウスの正体
語源は天空神
ゼウスは本来天空とその輝きを表徴する神格であって、p91
エリアーデの三世代交代によると、ウーラノス、クロノス、ゼウスと三世代目であり、四世代目のアポローンにとって代わられる観がある。
雷神
しかしこの光の神としての性格もしばしば伺われる一方に、天空を支配する主神として、雲や雨、雪、霰、あるいは雷電をその意のままに駆使する者、との見方も
彼の像の最もありふれた持物は、雷火を表象する戟と、乱雲の表徴と考えられる(ただの山羊皮との主張もある、ローズなど)アイギス(山羊皮盾、雲楯)であった。
アイギスは、山羊との関係性、山羊、羊がトーテムであることを想定させる。
つまり、第一二王朝の主神アメン神が、クレタ島経由で伝わったと見るべきだろう。
ゼウスの出自・地縁
トロイアのイーデーとクレーテー島のイーダー
トロイア地方の高山イーデーは、『イーリアス』の中に、ゼウスが好んで訪れる山嶺としてしばしば謳われている。
またクレーテー島の同名の高山イーデー(イーダー)も霊峰として聞こえ、・・・p93
ゼウスはクレタ島で誕生している。ギリシア本土の誕生でないことは、ゼウスがクレタから到来した神格であることを物語る。
聖地ドードーネー
さらにゼウスの聖地として、特にその神話によって名高かったのは、ギリシア民族の居住地から離れた、西北方エーペイロスの奥地にあるドードーネーである。
クレタ島からエーリス経由で、またエーペイロスのドードーネー経由で、ギリシア本土に到来したとみる。
要は、南から、西を経由して到来したのだろう。
ゼウスの権能
上代ギリシア文学にも大きな役割を演じているのは、「主客の義を守るゼウス」(ゼウス・クセニオス)と、懇願者、救いを求める者を庇護するゼウス(ゼウス・ヒケシオス)であった。p94
フェニキア人が導入した神らしく、交易と都市間外交に大活躍の神であったのだろう。
危急の場に置かれたものが神々の祭壇にとりすがるときは、その者は該当神の庇護下にあるものとして、その限りにおいては侵害することを許されない。
そしてこの義をすべてみそなわし、守りたまうのは、ゼウス・ヒケシオス(祈願者のゼウス)であった。p95
ゼウスの二代権能が、
「主客の義を守るゼウス」(ゼウス・クセニオス)と、
「懇願者、救いを求める者を庇護するゼウス」(ゼウス・ヒケシオス)
ゼウスの伴侶
第一配偶のメーティスの産まれ代わりがアテーナー
第一に配偶に選んだのは、ヘーシオドスによると、女神メーティスであった。
メーティスが懐妊したとき、彼女を腹中に収めてしまった。・・・斧で頭を打ち割らせた。こうして産まれたのがアテーナー女神で、・・・p102
第二夫人テミス
その次にゼウスはテミスと結婚した。p103
メーティスとテミスは、ティーターン族で、正式の結婚ではない。
つまり、先住民のプロト・フェニキア人であろう。
娘のペルセポネーとの間にザグレウス
また密教の一種であるオルペウス教徒の神話によると、ゼウスは自分の娘であるこのペルセポネーを熱愛して、ついに蛇形をかりて思いを遂げた。
その結果生れたのがザグレウスという神だという。
カドモス一統の導入したデーメーテールと交わって、ペルセポネーを生む。
この地下女王ペルセポネーはヘーラーの形代のようである。
一方ゼウスは、最愛の子ザグレウスを愛惜のあまりに、その神像を腹に収めた。
それから今度は彼を転身させて、セメレーの胎から産まれさせた。これがすなわちディオニューソスである、と。
ディオニューソスは、カドモス系の神である。
デーメーテール、ペルセポネー同様。
レートーとの間にアポローンとアルテミス
ティーターンの一族コイオスの娘とされているレートーも、デーロス・・・
以来この島は、アポローン、アルテミス両神の聖地として尊ばれる。
ティーターン族のレートーとの交わりも正式なものではない。
庶子アポローンとアルテミスは、アイオリス系の神格であろう。
レートーの出自
ゼウス以前の神々の世に属するレートーとは、何者であろうか。
おそらくは小アジア系の大地母神の一形態ではないだろうか。
レートーの原語形は、ラートーである。これはただちに、かの双子神の生母として、白鳥に化したゼウスを抱擁したレーダー(原形ラーダー)との類似を思わせる。
正式な結婚はヘーラーとだけ
最後にゼウスは正式の配偶として、女神ヘーラーを迎えた。
二神の結婚式は、あらゆる神々を迎える華やかな饗宴で賑わされた。
先の二人とは結婚式を挙げていない。
メーティスとテミスは、地元の豪族の娘を投影し、テーバイ帝室のヘーラーと結婚をするため、離婚させられたと想定すべきだろう。
結婚、そして一夫一婦制は、フェニキア人のカドモス一統がギリシアに導入した道徳であったと想定される。ボイオーティアのプラタイアには、ゼウスとヘーラーの聖婚神話が伝わっている。
またカドモスとハルモニアーの結婚式をこの主神カップルの結婚神話は投影しているのかもしれない。
因みに『聖書』の一夫一婦制も、ユダヤ教は、一夫多妻であり、フェニキア人イエスがはじめて、持ち出した道徳観である。
一夫一婦制は、歴史的に見て特殊な道徳観であり、ほとんどの民族は一夫多妻である。
ゼウスの子ども
結婚の嫡子はアレースだけ
この二神の結婚がもたらした果実はというと、・・・
軍神アレースと、若さの女神ヘーベーと、お産を護る女神エイレイテュイアの三神にすぎない。
二人の女神は、ヘーラーの分身にすぎないので、両主神の嫡子はアレースただひとりということになる。
ヘーラーの単性発生ヘーパイストス
火と鍛冶との神ヘーパイストスも彼女の子であるが、これは一般に彼女が一人で造った子ということになっている。
彼女も一人ぐらい独りで子を造ることができるのを証拠だてようと、このヘーパイストスを生んだ、というのである。
ただ残念なことに、彼女の独り子はびっこだった。
ヘーパイストスは、カベイロイの重要な神である。
アテーナイ人によって、ヘーパイストスが貶められたのであろう。
寄せ集め神学の出自
元来がゼウスはギリシア種、ヘーラーはアルゴスの土着の先住民の主女神である。
その家族も当然寄せ集めであるのは是非ないことであろう。
アレースはおそらく北方種の、ヘーパイストスは東洋種、アテーナーも古い土着の大女神、ヘーベーとエイレイテュイアは、ヘーラー母神の形代にすぎない。
人間との間の子
アルクメーネーの子ヘーラクレース、ダナエーの子ペルセウス
レーダーの子カストールとポリュデウケース、すなわち双子神ディオスクーロイなどである。
クレーテーのゼウスはレイアーの幼児神
ゼウスが幼児をクレーテー島で過ごした、という伝説・・・
レイアーはもともとクレーテーの大地母神あるいは山の女神で、ゼウスはその幼児神なのである。
アルティスに古いヘーラーの社殿と前457年のゼウスの社殿
前節に述べたエーリスのオリュンピアにあるゼウスの社地は、アルティスと呼ばれた囲壁をめぐらす一区画であった。
この地にはゼウスの社殿のほか、由緒の古いヘーラー女神の社もあった。
ゼウスの社殿の完成は、前四五七年とされる。
第二節 女神ヘーラー
ヘーラーの地縁
アルゴス、スパルタ、プラタイア(ボイオーティア)、サモス島
しかし彼女には古来特殊な勢力圏があった。ヘーラー崇拝の中心地があった。
ホメーロスでも、彼女がすべての国々、ありとあらゆる都のうちでも、とりわけていとしむのは三つ、アルゴスと、スパルテーと、ミュケーナイとであるという。
ヘーラーがアルゴス一帯の地方、アカイオイと呼ばれていた、当地覇権を握っていたギリシア民族の一分派の居住した地方の中心に、確固たる宗教的地盤をもっていたことを示している。つまりアガメムノーン(アカイオイの大君主)の勢力はヘーラーのそれと、あい覆っているのである。
ヘーラーはアカイオイ(ペロプスの子孫)が主神として受けいれたようだ。
テッサリアのラピタイであるイクシオンがヘーラーの寵愛を得ようとしたことはその文脈で考えうる。フェニキア人のテーバイ覇権の大女神を引き継いだのだろう。
テーバイ帝室は、ペロポネソスをアイオリス王家と分け持って、アルゴスに首都を移し、軸足をアルゴスに移したのだろう。
そののち、ラケダイモーンに本拠を移す。(ヘラクレイダイの帰還後)。
ミュケナイは、一時的にアカイア人が制圧した時の地縁であり、ヘーラーの第一の本拠地は、アルゴスである。
ヘーラーはヘーロース(領主)の女性形
ヘーラーがアルゴス一帯地方の大女神だったことはほぼ間違いない。
ヘーラーという名称もギリシア語のヘーロースの女性形だ、という主張もきわめて蓋然性に富むと考えられる。
ヘーロースは、ホメーロスなどでは、ほぼ領主とか殿とかいうほどの、男性の尊称に用いられている。p123
ヘーラー生誕地のサモス島
一方、アルゴス市やサモス島には、その地で女神が生まれ、土地のニンフや領主(ヘーロースである)によって扶育されたとの口碑があって、女神との特別な縁故を証明しようとする。(いずれもヘーラー信仰の大中心地なのに注意)
ヘーラーはどこで生まれたか?
サモス島生れというが、実はアルゴス生まれで、アルゴス王=テーバイ帝王であったヘーラクレース=エウリュステウスの娘によって勧請されたのであろう。
ヘーラーは、おそらくカドモス一統によって、ボイオーティアから持ち込まれた神格であろう。(プラタイア生れであろう)。
ヘーラーの権能
結婚と妊娠の女神
その第一は結婚である。
それはすなわち神聖なる結婚、「聖婚」式(ヒエロス・ガモス)である。p124
「ヘーラーの職分は第一にこのように、・・・「ガメーリアー」(結婚を司る)、・・・
それらは同時に「エイレイテュイア」(産褥分娩を司る)たることを意味し、アルゴスなどでは、この名でも祭祀をうけていた。p125-127
また「寡婦」(ケーラー)と呼ばれるヘーラーは、・・・彼女がゼウスと仲違いをし、独りで蟄居した時代を意味すると解され、・・・p127
ヘーラーの権能は、
①「ガメーリアー」(結婚を司る)
②「エイレイテュイア」(産褥分娩を司る)
③「寡婦」(ケーラー)(寡婦の庇護を司る)
つまり、一夫一婦制の結婚制度をギリシアに導入したのは、フェニキア人のカドモス一統であったが、女性の地位がすこぶる高かった。
テーバイ帝室におけるヘーラーは、結婚・出産などに特化した女神ではなく、
ハトホル=ウスレトがその起源であるから、
豊穣・地下資源・地下密教=死と再生の密教の女神でもあった。
テーバイ帝室直属以外は、このヘーラーの権能は、デーメーテールやペルセポネに、アプロディーテーに分配されたと想定される。
「牛の眼ボオービフ(貌)をした」の称号は牛をトーテム
ヘーラーの称号で最も通例なのは、「牛の眼(貌)をした」というのであるが、その本義については諸説がまちまちであろう。おそらくは牝牛(大地をしばしば表象する)が彼女と、特にふかい由緒因縁をもち、たぶんは牛をトーテムとする女神であることを示すのではないかと推測されて、・・・
「牛の眼(貌)をした」は、ゼウスのトーテムが山羊や羊なら、ヘーラーのトーテムは牝牛であることを意味する。これはハトホル女神であるからだ。しかし、エジプトから直接伝わったのではない。
シュメル人を核としたプロト・フェニキア人の第一二王朝のファラオがレヴァントに遠征したおりの置き土産が、「スマイティングポーズ」のバアルと牝牛をトーテムとしたハトホル=ウスレトである。
崇拝地の拡大ー帝国の女神ヘーラー
ボイオーティアとエウボイアの両州の地縁(ことにプラタイアイ市)
ヘーラー崇拝の本拠は、上述のように第一にはアルゴス地方で、ここは有名なヘーラーの社殿がある。
その他ボイオーティア、エウボイアの両州も、そのキタイローン山がエウボイアにかけて、ヘーラーの聖婚に関する伝説をもつので知られるように、女神崇拝の一中心(ことにプラタイアイ市)であった。
カドモス一統の本拠地であるボイオーティアこそ、ヘーラーの生誕の地であろう。
テッサリアからイオニアまで
その他テッサリアのイオールコス、ペロポンネーソスのコリントス、先に述べたロドス島、ナクソス島、クレーテー島など、いずれも有力なヘーラー崇拝の儀軌をもって知られた。p
すべてフェニキア人の植民の領域である。
イオールコス王家の英雄イアーソーンは、ヘーラーの寵児であるが、これはテーバイ帝室とイオールコス王家(アイオリス王家の宗家)との強い共闘関係を反映している。
コリントスの隣国シキュオンにも、テーバイ帝室のクレオーン王の投影であるアルゴス王プロイトスによって、ヘーラーの神殿が建設されている。
クレタ島、ナクソス島、そしてロドス島も、フェニキア系の領域である。
前二千年紀以来のサモス島のヘーラー信仰
またサモス島もヘーラー信仰の大中心として古くから知られて宏大な神殿社地を擁したが、その起源は戦死時代をはるかに遡り、前二千年紀の半ばにも達する。
フェニキア人=カナン人がキクラデス諸島に割拠していた時代から。
サモス島は一大聖地であり、その淵源は、前2000年紀に遡る。
つまりアルゴス遷都時のヘーラクレースの同僚王であったエウリュステウス王の娘がヘーラクレースの遠征に同行し、サモス島にヘーラーを里帰り勧請したのである。
ヘーラーの分身ヘーベー
神話としては彼女はヘーラクレースが自焚してから、彼の妻とされ、ヘーラーとの融和の仲立となる。彼女はヘーラーと共に、あるいはヘーラクレースに伴って祭祀を受け、またコリントスに近いプレイウースやシキュオーンの町ではディーアーあるいはガニュメーダーと呼ばれ、青春の自由な享受、束縛からの解放を表徴した。
ヘーラーは、ヘーラクレースの母にして妻であるわけだ。
第三節 女神アテーナー
トリトニス生れ(リビア生れかボイオーティア生れか)
トリート・ゲネイアとトリートニス
しばしばその別称として用いられるトリート・ゲネイア(トリートに生まれた者)、トリートーニス(トリートの女神)などの意味もはなはだ明らかではなく、・・・p132
「トリートニス」は、ボイオーティア、テッサーリアなど北ギリシア系らしく、この地(リビュアーにもあるという)にはトリートーンなる河湖があるとされ、また海にちなむ神名トリートーン、アンピトリーテーなどから、おそらくは水に縁のある呼び名と考えられる。
エレクテウス=エリクトニオス=エリ(大いに)クトーン(土壌)
このエレクテウスは、別人とされるエリクトニオスとおそらく同じ人で、共にエリ(はなはだしく、大いに)とクトーン(「土壌、地」の義で、「豊饒の大地の子」)を意味し、たぶん地神に属そう。
ボイオーティアのアラルコメナイ
ボイオーティアはコーパイス湖畔のアラルコメナイで、この地は女神生誕地とも伝えられ、先のトリートーン川もここにあるという。
アルカディアのアリペラー(ここにもトリートーン川がある)、
アラクネー
アラクネーの父親はコロポーンのフェニキア系紫染め工人・商人
小アジアの西岸、コロポーンの町にアラクネーという少女がいた、両親はあまり身分の高くない商人だった。
父親のイドモーンはよく娘の面倒を見て、機織が好きなところから、毛糸をとうとい紫いろに染めては、彼女に与えていた。(「テュロスの紫に染めた鮮やかな色糸」)とある。P141)
コロポーン=コロポンはイオニア12都市の1つで、ヘレニズム時代ペルディッカスがサモス島民を移住させた。住民はフェニキア系ギリシア人ということだ。ローマ時代は、アラクネの父親はフェニキア人の染色職人兼商人というイメージだったのだろう。
アラクネーは凄腕機織
少女の技は日ましに進んで、今ではひろいリューディアにもイオニア中にも、並ぶ者のないくらいになった。
フェニキアの技はギリシア人の師匠のレベル
まったく、アテーナー女神が、みずからこの技を少女に授けられた、と誰しも思ったであろう。しかし少女はこれを否定して「いえ、とんでもないことです、私は誰にも教わったことはありません。女神さまとだって、けっして技くらべをいたしましても、負けるつもりはありません。」
オリュンポスの神々の非道徳な暴政を告発する政治絵を織った!
一方アラクネーの布はというと、エウローペーが白い牛に欺されて乗ってゆくところを写した、・・・。そのそばにはレーダーが白鳥の翼に抱きすくめられていた(ゼウスの情事を描く)。またゼウスが、アンピトリュオーンの姿にかわって、彼の妻アルクメーネーを、たらしこんでいるところもあった。
同じく彼が後では蛇形の髪となったメドゥーサのまだ初々しい乙女のときに、彼女を甘い言葉で誘っているところもあった。
ヘレニズム期のギリシア人たちが文化的恩人のフェニキア系住民を弾圧していたことが投影。
技で負けたアテーナーは権力行使!
その出来栄えはいかにも見事で、アテーナー女神も、また、たとえ嫉妬の神自身でさえも、ほとんど難のうちようのないくらいだった。しかし金髪の女神は、それだけにひとしお胸の怒りを抑えきれず、この刺繍された布を真っ二つに断ち切ってしまわれた。
技では明らかに敗北を認識しながら、暴力に訴えるアテーナーが金髪なのに注意。当事のギリシア人支配層のフェニキア系ギリシア人への差別が反映。
アラクネー(蜘蛛)の変身物語
女神はアラクネーへ、ヘカテーの魔法の草の汁をそそぎかけられた。すると・・・彼女はつまり蜘蛛になって、女神からなお赦された昔の技のあわれな名残を繰り返しているのだった。
アウグストゥス時代のローマ人オヴィディウスは、イタリアのスルモー(スルミーナ)出身。イオニアの移民が造った都市か。この話の核は、イオニアの伝承を集めたものの一つだろう。
第四節 アポローン
アポローン
アポローンの出自
アポローンの出自:小アジア
小アジア地方の種族に崇拝され、その守護神としてあがめられていた、強大な神格であったに違いない。
トロイア方の味方でヘクトールが寵児のアポローン
アポローンはつねにトロイア方の味方であって、けしってギリシア(アカイオイ)側を助けることはない。トロイア方随一の勇将ヘクトールが彼の寵児で、彼はヘクトールを勝たせようと、しばしば戦闘に干渉する。
母レートーは小アジアの大女神
神の信仰の最大の中心地は、ポーキス州のデルポイ、ついでは多島海中野小島デーロスであるが、
デーロス島で彼と姉妹神アルテミスとを産んだというレートーは、おそらく小アジア系の大女神だったに違いない。
小アジアの大女神の植物の精の若い男神
おそらく彼は小アジア系大女神に伴う若い男神であったらしい。
つまり春とともに萌しやがて繁茂する植物の精の権化であろう、それ故に彼はつねに若く、青春を謳歌するわけなのだ。
アポローンの出自:北欧
ヒュペルボレオイ(北風の彼方の住民)=北欧出身説
かのヒュペルボレオイ(極北人)の伝説であう。
ヒュペルボレオイとは「北風の彼方の住民」つまり非常に遠い北方地帯に居住する種族であって、・・・
アポローンの聖鳥として光明に輝き、暁に御神の頌歌をうたうあの白鳥キュクノスも、その故郷はヒュペルボレオイの国で、極洋にのぞむ地方であると。
(byヘーロドトス)p161
白鳥がトーテムというのが、いつからかにもよるが、これを取るなら、極北出身もありうる。
しかし、古くは、カラスがトーテムであり、疫癘神であることが、アポローンの核であるので、極北出身は、インド・アーリア語のフリュギア人がアナトリアに南下してからの追加かもしれない。
アポローンの権能
権能1「銀弓神」アリュギュロトクソス
その中でも「銀弓神」アリュギュロトクソスというのは、たぶんにも彼の職能や性格が、はっきりしてからできたものであろうが、
元来の職能:害虫駆除からの「疫癘の矢」を射る
彼の職能となると、広大で多岐である。
少なくとも五穀を荒らす野鼠やいなごや、昆虫類の防御掃滅を司る御神だったに違いない。
また悪疫や流行病も早くから彼の縄張りに属していた。
『イーリアス』の初めに、彼は疫癘の矢、目に見えない矢をギリシア軍の陣営めがけて射込み、ぞくぞくと彼らを倒す。・・・ 「疫病の送り手」
職能の2:予言を下すーデルポイのピュトーンから強奪
第二の、これもきわめて古くからの仕事は、
予言を下す者、神託を与える者としての職能である。
ゼウスの、ドードーネーにおける神託も有名だったが、それにも増してデルポイの彼の神殿で、特殊な巫女ピューティアーが、奥殿の、大地の割れ目から吹き出す気を吸い、神がかりの状態になって下す、と進ぜられた託宣こそは、重々しい、絶対的な権威をもつものとされた。
ゲー(ピュートーン)の託宣所をアポロー占拠占拠
伝説によるとこのデルポイの渓谷は、古くはピュートーといって、そこには大地ガイア(ゲー)あるいはテミス女神の託宣所が悠久の昔からあったといわれ、げーの象徴である一匹の大蛇がこの地を占拠していた(ピュートーンというこの竜はすなわちゲーその者と同一であろう)。それをアポローンが来て殺し、この地を占有して、自分の社殿を建てたといわれる。
ディデュマのブランキダイ
次に小アジア西岸におけるアポローン信仰の大中心として聞こえたディデュマは、ミーレートス市の南、一七キロ余のところにあり、古くからアポローンの聖地として知られた。
古くはアポローン神の寵愛を享受したと伝えられるブランコスの末裔である神職の家柄ブランキダイによって運営されたが、前五世紀頃からミーレートス市の手に移された。
このディデュマの御神託は、ローマ時代に入ってまでも、デルポイと並んで有名なものであった。
アポローン、デルポイの神託所を強奪である。
権能の3:豊穣ー豊穣神ヒュアキントスから強奪
ヒュアキンティア(ドーリス侵入以前から)
ラコーニア(スパルテーのある地方)におけるアポローンの信仰で、ことにアミュクライ市に古くから行なわれていたアポローンの祭事ヒュアキンティアと、スパルテ・ペロポンネーソス半島一帯に広まっていたアポローン・カルネイオスのカルネイアの祭などは、共にドーリス人の来住以前から守られてきた習俗の保存されたものと考えられる。p158
古都アミュクライはスパルテー以前のラケダイモン人の首都
アミュクライはラコーニアの古都で、この市が、ミュケーナイ時代の初期あるいはそれ以前には、スパルテー以上に有力な都市だったらしいことは、トロイア戦役の原因として伝えられる美女ヘレネーの父のテュダレオースが、もともとこの町の領主だった、という伝説でも推察される。p159
顎髭をもつアミュクライのヒュアキントス像
この町のアポローン神殿もしたがって由緒がきわめて古く、・・・
名高いヒュアキントスの墓があるという。
またこのヒュアキントスの像が(少年であるはずなのに)、小さい顎髭をもっているのも不思議である。p159
おそらくこれはその名ヒュアキントス(先住のエーゲ海分文化の語系である)が示すように、農業地帯であるアミュクライの、小アジア系先住民がもっていた五穀豊穣の神、死にかつ蘇り栄える穀物の精であって、それが同系統に属する青年神アポローンの到来によって、祭祀を乗っ取られたものであろう。p159-160
ヒュアキントスは、ラケダイモーンの古都アミュクライの古王で、「その名ヒュアキントス(先住のエーゲ海分文化の語系である)が示すように」つまり、「ントス」は、エーゲ海文明の言葉、おそらくセム語系であろう。ヒュアキントスは、プロト・フェニキア人の豊穣神であったのだろう。
キュプロス島では、レシェフ=ヘーラクレースとアポローン・アミュクライオスを同一視しているので(ゴードンの本)、ヒュアキントス(ラケダイモーン王の職名)=ヘーラクレース(テーバイ帝室の帝王名)であろう。
権能4:太陽神ー太陽神ヘーリオスから強奪
太陽にたとえ同一視する見方は、・・・ついにアポローン即太陽神のような方程式を生むに至った。
明らかにヘーリオスの権能を奪った。
ヘーリオスから太陽神の権能を強奪。
権能5:医学・癒しーアスクレーピオス・パイエーオーンから強奪
パオエーオーン医療の神
古くから信ぜられたアポローンの職能の一つは、医療に関する事柄であった。
パイエーオーンという彼の呼び名は、「癒したもう者」という意味だと解釈されてきた。疫癘を送る者は、またこれを払う者であり、・・・
アスクレーピオスの父親として「接ぎ木」
『イーリアス』にすでに名医として知られるアスクレーピオスは、彼の子ということになっている。
ホメーロス自体が捏造班でもあろうが、この時代、すでにアイオリス人が、「癒しの権能」(反転術式)を、フェニキア人のエシュムンのギリシア上陸版であるアスクレーピオスから強奪した。
息子としてではなく親父として接ぎ木した。
アスクレーピオスは、髭のおじさんである。
この傍証は、ボイオーティアのアポローン・イスメニアスの神域のイスメノス川の語源が、エシュムンであることである。
つまりアスクレーピオスから「癒しの権能」を強奪したことはたしかである。
アスクレーピオス
アスクレーピオスの出自
母コローニスの出自
ラピテース族の王かオルコメノス王プレギュアースの娘
テッサリアはラーリッサの領主プレギュアースには一人の娘があった。名をコローニスと呼ばれ、・・・
その若い男は、アルカディアのイスキュスという者だといわれる。
矢は高い唸りをあげ、プレギュアースの館に入り、コローニスの胸にはっしと刺さった。
「せめてこの身に宿した、あなたさまの嬰児を、生み落としてまいりとうございました。今二つの命が、一本の矢で失われるとは」
『転身物語』のもととなったヘーシオドスなどが出どころの定説では、アスクレーピオスの母コローニスの父は、プレギュアース王である。
このプレギュアース王の出自にも、有力な二説がある。
一つは、テッサリアのラピテース族の王である。デルポイを破壊した荒々しい涜神王である。
もう一つは、ボイオーティアのオルコメノス王である。パウサニアスの蒐集した地元民の話がモトネタで、ボイオーティアのプレギュアース王は、実在性があり、戦争好きで、多くの戦士を集め、テーバイとの戦争に敗れて、残党はポーキス人となったいわくつきの王である。
母の異説として、コローニスではなく、レウキッポスの娘アルシノエーであるというのもある。
実はペロポンネーソス半島南部にも、アスクレーピオスの聖地が多く、エシュムンは、ここから上陸して、エピダウロスへ発展したか、コリントス湾から上陸してエピダウロスに進んだか、いずれにせよ、エシュムンーアスクレーピオスの領域の核がエピダウロス(ペロポンネーソス半島)だけに、こちらも無視できない。
ボイオーティアにも勢力を伸ばし、アポローン・イスメニアスの神域は、もとはエシュムンーアスクレーピオスの神域であったはずである。
ボイオーティアのアスクレーピオスの古いとするならば、オルコメノス王プレギュアースの娘コローニスの息子は成り立つであろう。
養父はケンタウロス族のケイローン
その胎から嬰児を取り出し、これをぺーりおんの岳に棲まう、半人半馬のケンタウロス・ケイローンに委ねられた。
これが、いうまでもなく、医薬の神アスクレーピオスの生い立ちである。
ラピダイ人の娘の子で、ケンタウロスに育てられる。
これはラピタイ族=ケンタウロス族であるから成り立つ。
アスクレーピオス、神の領域侵犯を犯して焼き殺される
それというのは、彼は人を救うのに熱心なあまりに、ついに死者をも蘇らせたのである。
しかしこれは、いかにも自然の理法に背いた、不当の侵害であった。冥府の王プルートーンは、当然に手厳しい抗議を兄のゼウスのもとへ提出した。
ゼウスはさっそく雷火を遣り、アスクレーピオスを焼き滅ぼして、地下の世界に送り込んだ。
アスクレーピオス信仰の広がり
医療の神へ 各地に治療所
アスクレーピオスは、この事件ののちアポローンの憤慨ももっともとあって天上の神とせられ、・・・
その後もアスクレーピオスは医療の神として広く信仰され、各地に神殿や治療所をもっていた。
アスクレーピオス=エシュムンの信仰は、十分に民間に浸透していたため、衰えることなく、アポローン信者が、その権能を強奪してしまうことは不可能であった。
そこで、第一級の神・シドンの新しい主神エシュムンは、ギリシア本土では、二級の神として復活を遂げた。
シドン本国では、バアル=ポセイドーンからエシュムン=アスクレーピオスへ主神の世代交代がなされたが、エシュムンは、その後、シドンで主神、テュロスの植民都市カルタゴで、地元のアンモン神=アメン神と結びつき(つまり外面はアメン神のように羊の角を生やしたりしたが、中身はエシュムン)バアル・ハンモンとして主神となった。(カルタゴは、独立していたが、テュロスの植民都市の娘市として、半従属の立場にあったため、テュロスの主神メルカルトは、母市の総本山に詣でていた。)
一方、テュロスの主神メルカルトも、「前1200年のカタストロフ」以前のテーバイ帝室の統一下では、第一級の神であったが、「前1200年のカタストロフ」以降は、半神ヘーラクレースの地位に落とされた。
エピダウロス出身説
しかし古典期以降、その規模と名声とで全人文世界に聞こえたのは、アルゴス州の東部半島地帯にあるエピダウロスのアスクレーピオス大神殿で、パウサニアース、ストラボーン以下古代の地誌家は、みなその模様をくわしく伝えている。
別伝では、コローニアスの父プレギュアースがもともとテッサリア人ではなく、この地の者と主張されるなど、とりどりである。p173
アスクレーピオスは、アルゴス州のエピダウロス出身説もある。
つまり、エシュムン信者は、ペロポンネーソス半島の北コリントス湾と、南マレア岬から上陸した可能性が高いからである。
蛇がトーテム(フェニキアのエシュムン)
エピダウロスには堂々たる社殿が軒をつらね、種々な治療のため、また患者を宿泊させるための設備が設けられていた。
また境内にはたくさんな蛇が養われ、ことにやや茶色をした種類のものは、アスクレーピオスの御使いというので、神聖視されていた。この類の蛇は、この地方に限って棲息するもので、おとなしく人畜に害を加えない。
蛇がトーテムであることは、ヘルメース神との親近性を感じる。
ヘルメース神の淵源は、シュメル人のラガシュの王グデア王の個人神ニンギシュジダ神であり、この神が、道祖神型のヘルメースに発展した。(『シュメル』P233-234)
フェニキア人の核は、シュメル人であるので、フェニキア人は、水徳の民族であり、エンキに代表される水神系を重んじる。だから、しばしば蛇がトーテムである。
宇宙は水から生じたという認識である。つまり星雲は、粒子が荒くなるにつれて、水から土へと振動数を下げていったわけだ。
コース島の学塾とアスクレーピアダイ
エピダウロス以外ではコース島が医学の中心として最も名高く、元来気候温和に豊饒な健康地として知られ、有名なアスクレーピオス神殿を有していた。
この地には神裔といわれるアスクレーピアダイの一族が居住し、医術の学塾を営み、かの医聖といわれる上代第一の名医ヒッポクラテースを出して、その遺風をローマ時代にまで伝え、コース学派の名をひびかせた。p174
アスクレーピオスの聖地の大きいところは、
ペロポンネーソス半島のエピダウロスと、ドーリア人のヘクサポリスの一つコース島である。
表徴:蛇、遊行者の杖、投薬杯
アスクレーピオスの表徴としては第一に蛇、それから遊行者の杖と、医者の薬を呑ませる杯などで、神前にささげる贄としては、あのプラトーンの著『クリトーン』に記すように、雄鶏がふつうであった。
ヒュアキントス
ヒュアキントスの出自
ヒュアキントスはラケダイモンの古都アミュクライ生まれ
初春に濃い紫の花、あるいは紅の花を開く、ヒヤシンス、ヒュアキントスも、その昔は、アポローンの寵愛を一身にあつめた少年だった。
彼は、ラコーニアの首都スパルテーから、すこし南へいったところにある古い町アミュクライの生まれで、その開祖アミュクラースの子ともいわれる。p184
ゼピュロスとの三角関係?
西風ゼピュロスが、ふと、むらむらと燃え上がった嫉妬心から、この円盤を押しつけて方向を変えさせ、少年の額に、まっこうから落ちかからせた。
テュロスの紫を思わせる紫の花
テュロスの紅よりも鮮やかな花が、茎をもたげた。その花は百合に似た姿をして、ただその花弁がまっ白のかわりに、濃い紫の悔いをたたえていた。
ヒュアキントスは先住の精霊神か?
このヒュアキントスという神格はもともとギリシア民族の来住以前からある青年神、植物の精霊神で、その信仰がのちにアポローンに急襲されて彼の祭儀に転化し、ヒュアキントスの名だけがアポローンの寵童として残り、・・・
先住民の特異語形 -nth-(ーント、-ントス)
その名ヒュアキントスが、先住民族の特異語形といわれる-nth-(ラビリントス=迷宮、アサミントス=風呂、エレビントス=豌豆など、地名ではコリントス、テューリンス、オリュントスなど)を有するのも特徴的である。p188
語尾-nth-(ーント、-ントス)
先住民族の特異語形とされるが、先住民族はフェニキア系であることはたしかであろう。
ラビュリントスは、シュメル系第一二王朝のファラオの造った迷宮から、クレタ島の迷宮の言葉であり、アサミントス(風呂)は、クレタ島やピュロス、カルタゴなどフェニキア人が愛用した施設であり、豆はフェニキア人の主食でもある。
コリントスは、プロト・フェニキア人が植民し、テーバイ帝室のテーバイーアルゴスの藩王国であった。ティーリュンスもしかり(ヘーラクレースの生誕地に捏造されている)、オリュントスは、カルキディケ半島にある都市で、これもフェニキア人の領域内である。
キュプロスのキニュラース
また、地中海のはるか東の方、キュプロス島の王キニュラースも、かつてアポローンに愛せられた者のリストにあがっている。
彼はおそらくギリシア系ではなく、同島のポイニキア人の文化を代表する者で、アシュタルト=アプロディーテー崇拝の中心人物であるから、p189
テッサリアのペーネイオス河の娘キュレーネー
キュレーネーはテッサリアの河ペーネイオスの河神の息子ヒュプセウスの娘であった。・・・
アポローン神は、・・・地中海を越える南の、アフリカにまで運んでゆかれた。p191-192
キュレーネーは、テッサリア出身とは思われない。
アリスタイオスの母キュレーネー
そこで彼女は、アリスタイオスの母になった。このアリスタイオスは、おそらくこの地方に古くからある土地神で、農牧の神として知られ、土民に養蜂やオリーブ樹の栽培、狩猟の方法などを教えた、と言い伝えられる。キュレーネーが運ばれていったのは、いうまでもなく、アフリカのキュレーネー市であって、キュレナイカ地方の首都としてのちに栄えた町である。
アリスタイオスは、いうまでもなく土地の伝説にあった農神が、人類に光を与えるアポローンの子として、ギリシア名をつけられたものであろう。p192
アリスタイオスは、リビュアのキュレナイカ地方の農牧神で、養蜂やオリーブ栽培などの文化英雄であったのだろう。リビュアに植民したプロト・フェニキア人の指導者と想定できる。
アポローンの子ではありえない。
この農牧神は、リビュアのキュレナイカからギリシア本土に上陸して、テーバイ帝室の侍女アウトノエーの入り婿となった。
つまり、先住のプロト・フェニキア人で、養蜂やオリーブ栽培を伝えた人々に、テーバイ帝室が君臨し、されに技術を洗練させたといえよう。
アリスタイオスとアウトノエーの子アクタイオーンは、狩猟の神であったと思われる。
イーリオスのカッサンドラー
トロイア王女カッサンドラーにまつわるアポローンの伝説は、・・・
カッサンドラーは、トロイアの首都イーリオスの王プリアモスの娘であって、またアレクサンドラーとも呼ばれた。イーリオスにはアポローンの社殿があった。
おそらくは巫女として、その宮に仕えていたものと思われる。p193
第五節 女神アルテミス
出自:アルテミスはもと小アジアの大女神か?
女神アルテミスは、・・・まず先にアルテミスがオルテュギア(うずらの里)で生まれ、ついでデーロスでアポローンが生まれた。
この「うずらの里」というのははっきりしないが、
この女神崇拝の大中心であるエペソスの地とも、
あるいはアイトーリア州の古都カリュドーンとも、
シチリア島の大都シュラークーサイにあるオルテュギアー島だとも、
またデーロス島にほかならないともいわれ、
元来アルテミスは、ギリシア民族固有の神格ではなく、その征服した半島南部から小アジア西南部にかけて、広く崇拝されていた女神の変形したものと推察される。
権能1:「ポトニア・テーローン」
熊がトーテム
熊がアルテミスにとり最も親しい、あるいは神聖な獣であるばかりか、時には女神そのものの変形とも見られさえすることは、同じくギリシアのアッティケー州ブラウローンにおけるアルテミス・タウロポロスの祭儀が、アルクトイ(牝熊)と呼ばれる、一五歳から一〇歳ぐらいまでの少女によって執り行われたのにも思い合わされよう。
「野獣らを統べる御神」ポトニア・テーローン
アルテミスは、以上の祭儀や伝説にも知られるように、野山の生類と狩猟の司であるが、この「野獣らを統べる御神」ポトニア・テーローンの性格はこの女神に固有なもので、その由来は遠くミュケーナイ時代を遡り、クレーテー島のミーノーア文化の信仰に淵源すると考えられる。
マグナ・マーテルと処女神へ分化
この野山の女神は、一方では獅子を引き連れて山野をわたる小アジアの大女神、大神母マグナ・マーテルとなり、一方では古典期ギリシアの処女神アルテミスとなったものであろう。
エペソスのアルテミス
小アジアにおける女神崇拝の中心として、はやくからアルテミスの大社殿を有して名高いエペソスの神像も、このようにして理解されよう。この女神像は胸に多くの乳房を有し、豊満な母性神としてもっぱら生育と繁殖を司り、・・・
第六節 アプロディーテー
アプロディーテーの出身と領域
キュテーラ島へてキュプロスに
アプロディーテーは、キュテーラ(ラコーニアの突端から程隔たらぬ小島)に立ち寄って、それから今度は海にとりかこまれたキュプロス(これまた随分遠い道程である)に至り着いた。
アプロディーテー、すなわち「泡より生まれました御神」p221
外来のアプロディーテー
アプロディーテーは本来は外国出の女神・・・アプロディーテーの信仰がギリシア本土に渡ってきたのは、そう古い昔のことではないと、推定される。
フェニキア人のアシュタルト(アシュタルテー)から
カルターゴー人の帰依を得たというのは、アプロディーテーの本教が元来ポイニキアなど、東方にあったことにも無論関係している。キュプロス島も、半ばポイニキア人の古い植民地であった。
セミティック系の女神イシュタルあるいはアシュタルト(アシュタルテー)、・・・p225
軍神としてスパルテーに入る
一派はこれと別に、ラコーニアの南の小島キュテーラから、直接にラコーニア、すなわちスパルテーに入った。この系統は他と少々趣が変わって、単に美や愛欲の神ではなく、軍神としてであった。p225
アプロディーテーの権能
権能1:美と愛欲と豊穣
コリントスのヒエロドゥーロイ(神婢)
たとえばコリントスは、ギリシア中南部におけるこの女神の信仰の中心部で、この社はまた古くから多くの神婢ヒエロドゥーロイをもつことで、世に聞こえていた。・・・のちの遊女ヘタイラーの端をなすものであった。p229
コリントスの名ヘタイラーのラーイス
コリントスが、前五世紀から四世紀にかけて、当事の人文世界に・・・名妓を輩出させたのも、故のないことであった。中でも有名なのはラーイスで、・・・p229
アドーニス
アドーニスの出自
パポス市建設者キュプロス王キニュラースの子説
アポロドーロス(三・一四)によると、アドーニスは曙の女神エーオースの末裔にあたるキニュラースの子である。
彼は人々を率いてキュプロス島に赴き、パポスの市を建設した者であるが、当該地でキュプロスの人(すなわちポイニキア人か)ピュグマリオーンの娘メタルメーを娶って、アドーニスのほか一男一女を儲けたとある。p232
キニュラースは、キュプロス島のパポス市建設者。
おそらくテュロス王ピュグマリオーン(プマイヤトン)の女婿となっているが、もともとキュプロスの王だっただろう。
アドーニスは、ピュグマリオーンを祖父に、キニュラースを父に生れた生粋のフェニキア人だろう。
つまり、ピュグマリオーンーキニュラースーアドーニスというキュプロス島のフェニキア人の王の系譜が投影されていると見る。
ピュグマリオーンは、テュロス王兼キュプロス王である。
アッシリア王の父とスミュルナの不倫の子説
叙事詩人パニュアシスの伝としては、アッシリア王テイアースとその娘スミュルナとの間にできた、不倫の子だと述べている。
つまりこの娘スミュルナは、はじめアプロディーテーへの祭を怠ったため女神の逆鱗にふれ、父に対して道ならぬはげしい恋を抱くようにされた。
他所の女と思わせて十二夜を共に臥したが、露見して、追われ捕らえられようとしたおり、神々に祈って変身し、没薬の木に変じた、というのである。p233
ピュグマリオーンの孫キニュラースの娘スミュルナの子説
ローマの詩人オウィディウスによると、このスミュルナは、かの象牙の彫像に恋してアプロディーテーに祈り、ついにこれを生き身として妻に獲たというピュグマリオーン(前とは別人)の孫に当るキニュラースの娘となっている。
・・・ただ一言、「お父さまのような方を」というのであった。
ついにアラビアの南、サバの地に来た。彼女は没薬の樹になった。p234
オウィディウスは、パニュアシスの叙事詩を土台に、史実伝承のピュグマリオーンとキニュラースの王統の娘スミュルナと父との不倫の子をアドーニスとしている。
いずれにせよ、舞台はキュプロス島を中心にしたシリア、イオニアを含むエーゲ海領域であり、フェニキア人の領域である。
フェニキア系の王族ピュグマリオーンーキニュラースースミュルナーアドーニスという一家の神である。
アドーニス:風(アネモス)に散るはかないアネモネに変身
アドーニス・・・野猪(に突き殺される)
たちまち一本の草が萌えて出た。それは柘榴のように深紅な色の花を着けていた。だがその花弁の命は短く、その名のアネモーネーのちなむとおり、風の息吹にたちまちつれて散ってゆくのだった。
アドーニスの正体
アドーニスの信仰の領域
アドーニス祭は、・・・その本拠は直接にはキュプロス、さらにシリア、ポイニキアなどの地方らしく、キュプロスのアマトゥース市ではことに盛んに、またシリアのビュブロス市はアドーニス信仰の大中心で、・・・
アドーニスとは、セミティック語のアドーン(「殿様」「主」)から出たものとされ、同地ではもっぱらこのように呼んだ、といわれる。
アドーニスの語源は、アドーン(主人)
アドーニスとは、セミティック語のアドーン(「殿様」「主」)から出たものとされ、同地ではもっぱらこのように呼んだ、といわれる。
アドーニス=アドーン(領主)、アプロディーテーの加護する領主のこと。
アプロディーテーの作物の精霊
アプロディーテーの本地が、やはり東方系、ないしセム系の大女神であることを思い合わせれば、この青年神の本体、この祭儀の意味は明らかであろう。
つまりアプロディーテーは大母神であり、アドーニスはその若い愛人、すなわち作物の精霊なのである。
アドーニスの正体 総括
①その語源は、セミティック語のアドーン(「殿様」「主」)つまり、「主」(アドナイ)である。
②アプロディーテーの作物の精霊
③信仰領域は、キュプロス、シリア・フェニキア。
特にキュプロスのアマトゥース市とフェニキアのビュブロス市。
つまり、テュロスのメルカルト、シドンのエシュムンに相当するのが、キュプロスのアドーニスである。
キニュラースの正体
キニュラースはアプロディーテーの祭司
キニュラースはアプロディーテーの祭司として、あらゆる人間としての幸福を授けられたといわれる。そしてパポスに女神の社殿を築き、祭儀を定めアドーニスの哀歌を作った(これは明らかにアドーニスの父ではない。)
キニュラースは一人ではなく、東洋風な祭政一致の支配者を意味する普通名詞だったかも知れない。彼は音楽家であり、建築家であり、牧羊や毛織工業の推進者であり、鉱山を拓きキュプロス(銅)の名を負う冶金の術の発明者であり、その上にアプロディーテーの最初の神官かつ愛人で、またアポローンの愛者ともない、国王でもあり、つまりあまりにも多くのものでありすぎる。
キニュラダイ
歴史時代に彼の子孫と称したキニュラダイは、パポスの祭司の家柄であり、またアマトゥースの社職をも世襲する一族の名であった。
キニュラースの東洋的美
彼はアプロディーテーの被保護者かつ愛人として世のつねならず美しかったが、その美貌はギリシア風よりも、東洋的な柔媚さと豊満とに装われ、むせかえるような南国の甘い薫りと官能的な音楽に浸されていた、といわれる。
キニュラース( Κινύρας)の正体
アドーニスが神なら、キニュラースはれっきとした人間で、実在の人物の投影である。
①キュプロスのパポスの建設者であり、ピュグマリオーン(プマイヤトン)の子。
②パポスとアマトトゥースの代々の王の名(テーバイ帝室におけるヘーラクレース、ラケダイモーンにおけるヒュアキントス)
③パポスとアマトゥースの祭司の家系キニュラダイの祖で、代々の祭司。つまり祭司王。
テュロス王プマイヤトン(ピュグマリオーン)の治世、テュロスは、対外的領域展開において最大を極め、栄華の頂点を極めた。それゆえ、彼は、神話にもその名が残っている大王であろう。
テュロス・キュプロスの同君連合の帝王であり、妹エリッサを派遣して、カルタゴを建設した。
頂点は落下の分水嶺であるので、テュロスのなくなる時を見つめて、新天地の領域を模索したといえよう。
そんなプマイヤトンが、キュプロスに建設したのが、パポス市であった。
パポス市とは?
神話では、ピュグマリオーンとガラテアの子パポスが建設して名祖となった説、キニュラースが建設した説などがある。
おそらくピュグマリオン自身の植民であろう。
キニュラースはその子で、息子にキュプロス島を後継させ、テュロス本国は、エトバアル二世に、カルタゴは妹エリッサに信託したのであろう。
立地的には、キュプロス島を南(南西)に頭を向けた亀とすると、頭の先端がパポス市である。
アプロディーテー信仰のメッカである。アプロディーテー信仰は、キュプロスで生まれ、アシュタルテのギリシア語版として誕生した。そののち、キュテラ島に渡り、ラコニケに上陸して、ラケダイモーンの軍神兼豊穣の女神アプロディーテー・ヘーラーとなった。
パポス市( Πάφος)
神話では、ピュグマリオーンとガラテア(ピュグマリオーン効果=引き寄せの法則で創造した理想の伴侶)の子パポスが建設して名祖となった説、キニュラースが建設した説などがある。
おそらくピュグマリオン自身の植民であろう。
キニュラースはその子で、息子にキュプロス島を後継させ、テュロス本国は、エトバアル二世に、カルタゴは妹エリッサに信託したのであろう。
立地的には、キュプロス島を南(南西)に頭を向けた亀とすると、頭の先端がパポス市である。
アプロディーテー信仰のメッカである。アプロディーテー信仰は、キュプロスで生まれ、アシュタルテのギリシア語版として誕生した。そののち、キュテラ島に渡り、ラコニケに上陸して、ラケダイモーンの軍神兼豊穣の女神アプロディーテー・ヘーラーとなった。
キュプロス島の亀の頭の先端!
アマトゥース市(Ἀμαθοῦς)
立地は、キュプロス島の亀の左脇下に位置する。つまりパポスが西南とすると真南方向。
パポスの建設者キニュラースとアマトゥースの名祖の母の間に、アドーニスが生れた。
アドーニス信仰の一大メッカ。
考古学的ファクト
「エテオキュプロス語碑文」
キュプロス音節文字で書かれたエテオキュプロス語碑文が残っている。
キュプロス音節文字は、キュプロス・ミノア音節文字に由来し、線文字Aから派生した。
音節文字とは、子音と母音のセットと考えればカンタン、代表的なものに、シュメル文字、日本語文字、線文字A、線文字Bなどがある。カタカナ読みできる感じで、日本語に近い。
エテオキュプロス語(元キュプロス語)は、前11世紀から、な、な、なんと前四世紀まで使用されていた。それだけ、セム系の影響力が、キュプロス島には大きかったということだろう。
この碑文は、フェニキア文字アルファベットとエテオキュプロス文字(キュプロス音節文字)で書かれている。フェニキア語・キュプロス語ニ言語併用碑文である。このうち、エテオキュプロス文字のほうが、ギリシア語であるのだ。
(ゴードン本p166-168参照)
フェニキア語:lrsp mkl(レシェフ・ムクル)=アミュクライのレシェフ(ヘーラクレース)
キュプロス語:a-mu-ko-lo-i-a-po-i(アムクロイ・アポイ)=アミュクライのアポローン
この碑文は、かなり新しいつまり、アミュクライのヒュアキントス(=ヘーラクレース)が、すでにアポローンの名で、ラケダイモーンでは呼ばれていた時期である。
奉納者はバアルロムという人で、イダリオンとキティオンの王が、ミルキヤトン(mlkytn)の治世に奉納した。
セム系色の濃いアマトゥースは、キュプロス島にアカイア人が植民したサラミス市の簒奪王オシネロスのイオニアの反乱の同盟に参加を拒否し、フェニキア人同族に義理立てして包囲された。
しかし撃退し、逆にオシネロスを捕獲し処刑した。ヘーロドトスの話で有名。
コリントスやエリュクスの神婢
ギリシアでもコリントスやシチリアのエリュクス丘の社殿には、多くの信者から寄進された神婢があって、平常は雑業に当たり、祭儀のおりは舞踊や音楽でこれを助け、そのかたわら遊女の務めをした。
コリントスでは盛んな時に、このような神婢の数が千人を超えたともいわれる。p248
コリントスに入ったアプロディーテーは、フェニキアやシリアから直接入ったのかもしれない。
こちらは、豊穣の女神の面が強調され、神殿娼婦を抱えた。
アプロディーター・ヘーラー
一方に日常生活にも厳格な規矩を保ったスパルテーでは、アプロディーテーはもっぱら婚姻の守護神として、アプロディーター・ヘーラーの名の下に祭られた。
ラケダイモーンのアプロディーテーは、アプロディーター・ヘーラーである。
これは、婚姻の神であり、軍神である。メソポタミアのイシュタルの属性が反映している。
テュロス人が、アシュタルテをヘーラーにしたと思われる傍証である。
テーバイ帝室は、ハトホル=ウスレトと、地元でプロト・フェニキア人が導入していたアシュタルテ=アプロディーテーを習合させて、ヘーラーを創ったと想定される。
第七節 愛神エロースについて
エロースの起源(最古の宇宙生成原理)
元始的な神格・・・それゆえヘーシオドスの『神系譜』でも、エロースは世界の成立のはじめに、混沌カオスがかわれて大地ゲーや冥界の底の奈落タルタロスが生じたとき、これらについで、これらと共に生まれたとされ・・・p251
ヘーシオドス『神系譜』によると宇宙の生成に関わる最古の神格。
権能1は、豊穣神、領域は、ボイオーティア、ラコニケなどテーバイ帝室領域
その中で一番著名なのは、ボイオーティアの一市テスピアイのエロース社殿で、その由緒はきわめて古いものといわれていた。(パウサニアース・九・二七・一以下)。
その一番古い神像(昔の御神体であろう)は、荒削りの石だという。おそらくラコーニアの古都アミュクライのヒュアキントス像と同じく、生殖器崇拝の名残りが、エロースという名のもとに伝えられた、男根にかたどるものと考えられる。p253
エロースの最古の御神体
ボイオーティアのテスピアイ市のエロース社殿の御神体(ペニスを象った石)。
アミュクライのアポローン・アミュクライオス(実はヒュアキントス・アミュクライオス)の神像(素朴な円筒形)。
権能2は、同性愛の庇護者
アンテロースという神格
エーリスのオリュンピア近くにも、・・・エロースとアンテロースが祭られていた。
このアンテロースとはつまりエロースに対するもの、すなわち愛に応える愛で、エーリスの体育訓練場の彫像は、たがいに愛の勝利を争おうとする相互愛を表したものであって、・・・p254
エロース(愛人の愛)に応える愛アンテロース(稚児の愛)の象徴。
フェニキア系都市のエロース祭壇と神聖隊
その他にも、軍隊や訓練所で、同志愛を奨めるためにエロースの祭壇を築いていたことろは、スパルテーやテーバイ(かの「神聖な部隊」で名高い)、サモス、アテーナイのアカデーメイアなど、たくさんあったことが知られる。p255
同性愛と神聖隊のメッカは、テーバイ帝室のテーバイ市で、
エパミノンダスが神聖隊を創設した。
他もテーバイ帝室の領域、ラケダイモーン、サモス島、アテーナイのアカデーメイア(プラトンが同性愛者、アテーナイに同性愛を広めたのはテーバイから移民ゲピュライオイ族)、カルタゴなど。
第八節 ヘルメースとその眷属
ヘルメースの権能
権能1:神の伝令
ヘルメース・・・
彼の身装は大体つば広の帽子をかぶり(これはギリシアでは旅行者が日除けとして通例かぶるものであった)、手には黄金づくりの伝令杖ケーリューケイオン(ラテン語ではカードゥーケウスと呼ばれる、元来は牧人の木の棒であろう)を執り、足にはおおむね羽根のはえたサンダルを穿っている。
しかしこの役割もそう古いものではなく、たとえばホメーロスの『イーリアス』で、神々のお使いをつとめているのは、彼ではなくて虹の女神イーリスである。
旅行者の扮装の伝令の権能は、新しい権能。
伝令杖ケーリューケイオン(ラテン語ではカードゥーケウス)の蛇と、この持物自体は、古く、シュメルのニンギシュジダ神に遡る。
権能2:商業者=詐欺師の守護者
この説話にも現われているように狡猾さ、すばしこい頭の働きは彼の生得で、そこから彼はあっらゆる商業者、交易通商、その他すべての蓄財の道あるいは物を盗む技術、泥棒やすり詐欺犯収賄者などの親方たる地位にのぼり、p263
商業者の神ヘルメースはフェニキア人へのギリシア人の偏見か。
商業者は詐欺師ではない!
権能3:豊穣の神
ヘルメースの起源:ヘルマ型の豊穣神
権能1:豊穣神
ヘルマが原型:サモトラケーなど島嶼から
彼の原型は、ことにアティケー州や、多島海中のいくつかの島々、インブロス、サモトラーケーなどに見受けられるようなヘルマに発していると思われるからである。p264
ヘルマ=陽物の付いた石柱
このヘルマというのは、上部が人間の首になっている石柱で、その中央ぐらいのところに、多くはふくらんだ陽物が付いているもので、あてーないの市中にも多く観られたことは、かのシチリア遠征の際、アルキビアデースの一党が、これを毀損して回ったといって訴えられた、有名な事件でも知られる。p264
本地はアルカディア
民間におけるヘルメースの信仰は、もともっぱらこの方面に発していたので、その本地であるアルカディアは、いうまでもなく丘陵の多い、牧畜や農業一本槍の土地柄であった。p264
ペラスゴイ族の信仰
歴史家ヘロドトスも、このような起立した陽物をもつヘルメース像形を、元来アテーナイやサモトラーケー島などに居住していたペラスゴイ族の信仰にもとづくものだ、と称えている。
いずれにせよ、ヘルメースが、ごく低い農民層や牧者の間から、豊穣や家畜の多産を祝う神霊として起こったのは、ほとんど間違いないと言われる。p264
権能2:交通、伝令、道案内=道祖神
ヘルマから伝令使へ
一方このようなヘルマが、多く路傍に立っていたことから、彼は伝令使として、また道案内者としての性格を発展させていったものであろう。p265
累積堆(ヘルマ)境の石(ホルモス)へ
あるいは学者の説くように、もとは路角のしるしに積まれた累積堆(ヘルマ)か、あるいは境の石(ホルモス)そのものに発するのかも知れない。p265
権能4:プシューコポンポス
案内であるこの神格は、また人間を黄泉に導く、死出の旅路の先導でもあった。この「亡魂の案内者」ヘルメース・プシューコポンポスたる役割は、古代人の意識の中で、ヘルメースが演ずる主要な役の一つである。
後のヘルメース学に通じる属性である。
ヘルメースの正体をさぐる・・・フェニキアの豊穣と密儀の神
庶民性
アルカディアだけではなく、北ギリシアの農村地帯ボイオーティアやテッサリアも、彼についての伝説に富み、その信仰においても同じような庶民性を保っていた。
サモトラーケーのカベイロイのカドミーロス
そのほかにヘルメースと類似あるいは同一視される神格も少なくない。
サモトラケーケー島を中心とするカベイロイの崇拝にも、男女四体の神々のうち、若いほうの男性神カドミーロスは、ヘルメースのことだともいわれる。この信仰はボイオーティア、テッサリアなどの地方にもかなり盛んで、豊饒を与え危難から護り、ことに水難除けに効があると考えられた。
カベイロイはフェニキア人の豊饒と密儀の神々。ヘーラーの単性発生ヘーパイストスの子孫。
つまり、ヘルメースの原型は、カドモス一統が、サモトラケにいた時に生れた神格で、その原型はヘルマタイプのヘルメースであったのだろう。
ヘーパイストスの子孫ということは、ヘーラーの子孫である。
パーンの父
牧神パーンの父、・・・パーンは牧畜の国アルカディアの神なので、・・・
ディオニューソスやヘルメースとこの種のサチュロスたちは親しい。
ヘルマプロディートス
ヘルメースの児として、いま一人、特殊な興味を呼び起こすのは、ヘルマプロディートスで、・・・男女両性を兼ね備えるこの若者は、・・・
ヘルメースもアプロディーテーもフェニキア人に縁深い神格。
第九節 その他の神々
一、アレース
アレースの正体
ホメーロスやアテーナイ捏造班の不敬
野蛮なのに弱っちい
ホメーロス・・・アレース神自体はあまりよい待遇を受けず、ギリシア方のディオメーデースに傷つけられたり(人間にである)、アプロディーテーとの密会のところを見つかって、ひどい目に逢わされたりする。p276-277
野蛮な残虐王の信仰対象
彼の本拠は北方のトラーキア地方らしく(伝説のトラーキア王ディオメーデース、彼の子といわれ、かん馬を飼い、人肉をもって養ったと伝えられる)、ともかくすでにホメーロスでは、オリュンポスの神々の仲間入りをし、ゼウスとヘーラーとの息子ということになっている。p277
アレースは、テーバイの主女神ヘーラーの嫡子であり、カドモスの舅であるので、フェニキア系にとって重要な神格である。
アプロディーテーの間男
一般の神話伝説によると、アレースは、愛の女神アプロディーテーの夫として扱われている。
もっともホメーロスでは、女神の夫は跛足の鍛冶の神ヘーパイストスで、アレースはその隙をねらって通う密男ということである。(『オデュセイア』)p278
ホメーロスによる「前1200年のカタストロフ」の神々の降格
「前一二〇〇年のカタストロフ」以前は、アレースはテーバイ帝室の舅の神格で、ヘーパイストスは、主神ヘーラーの正当な息子。
つまり、女王ヘーラーの嫡子は、アレースとヘーパイストスの二人だけである。
つまり、「前一二〇〇年のカタストロフ」以前は、
主神はヘーラー女神、王配のポセイドーンついでゼウス(バアル)、
次に格の高い神が、ヘーパイストスとアレース。ヘーラーの嫡子である。
テーバイ帝室の子どもたちから生まれた神が、
ヘーラクレース(メルカルト)、ディオニューソス(オシリス=オーリーオーン)、アスクレーピオス(エシュムン)などである。
ホメーロスの捏造によって、
最高神ヘーラーは、悪役に、アレースはアテーナーの商売敵として弱腰の間男に、ヘーパイストスは、跛足の寝取られ男にと、侮辱されたのである。
ヘーラクレース、アスクレーピオスというフェニキア人の母市テュロスとシドンの主神は、テーバイ帝室下、最高のパンテオンを形成したいたであろうが、神から落とされ、半神にされた。
ヒュアキントス、アドーニスなどは、新来の神の稚児にされた。
アレースの実像
アレースはアプロディーテーの伴侶
有史時代のギリシア都市で、アレースはアプロディーテーと並んで、夫婦一対の神格として祭祀をうけていたことでも察せられる。p278
ハルモニアーの父
伝説でもテーバイの建設者カドモスは、アレースとアプロディーテーとの娘ハルモニアーを妻として与えられ、・・・
スパルタの武神エニューアリオス
アレースはまたエニューアリオスと呼ばれる武神と同一視されている。
『イーリアス』でも時にこの名で呼ばれるが、あるいは似通った他部族(南方住民)の武神が併されたものかもしれない。
スパルテーでは現にアレースをこの名で、またテーリタース(「野獣(を狩る?)」の神の意)と呼び、犬あるいは狼、時には人身御供をささげた、といわれる。p282-283
アレースの末裔
狂暴な者がアレースの末裔
その他にアレースの子または裔と称する者が(あるいは言われている者が)、きわめて多いことは前に述べた。p284
トラーキア王ディオメーデース
トラーキア王ディオメーデースも彼の子で、多くの駿馬を飼っていたが、これを養うのに人肉をもってしていた。p285
ミニュアイ人もアレースの末裔
またボイオーティアの有力な古都オルコメノス(ミュケーナイ時代または以前より栄えていた)の王家、ミニュアースの一族(ミニュアイと呼ばれる)、同系のアバンテス族なども、みなアレースの末裔と称した。p285
コパイス湖の北岸にあるオルコメノスの住民ミニュアイ人は、アイオリス系だろう。
テッサリア王のプレギュアース(コローニスの父)
またアポローンの愛人で、医神アスクレーピオスの母といわれるコローニスの父プレギュアース(テッサリアの領主)も、アレースの子といわれた。
後にテーバイの執政となったニュクテウス、リュコスの兄弟に殺されたのは、このプレギュアースであろう。p285
アレースはトラーキア出身
これらはおそらくトラーキア系に属し、固有の武神(アレースに当る)の祭祀をもっていたものではないか、と推測される。p285
アレースの正体 総括
フェニキア系のアプロディーテー(アシュタルテ)の夫である武神。
トラーキアの野蛮な原ギリシア人の武神。
カドモスがギリシアに上陸する以前に、アプロディーテーとともに上陸していた神格であり、後に、カドモス一統が導入したヘーパイストスとともに、ヘーラーの嫡子とされた。
アプロディーテーの起源は、
シュメル人のイナンナ・バビロニア人のイシュタル・カナン人(原フェニキア人)のアシュタルテー
からの系譜を引く女神である。
天空神アンの娘、もしくは、月神ナンナ(シン)の娘。太陽神ウトゥ(シャマシュ)の双子妹。
聖獣はライオン。
夫は、ドゥムジ(アラビア語でタンムーズ)。死と再生の神である。
ギリシア語では、アドーニス。
ギリシアに来て、トラーキアの武神と、アプロディーテーの植物神アドーニスが融合したのか。
ニ、ヘーパイストス
ヘーパイストスの領域
ヘーパイストスの本拠レームノス島
ことに多島海の北の方にあるレームノス島は、モスキュロスという火山をもち、その底にある仕事場は、この火と鍛冶の神ヘーパイストスの本拠といわれていた。p286
リパリ島もヘーパイストスの鍛冶場
そのほかリュキアからキリキア一帯の火山地方、シチリアの付近にあるリパリ諸島など、いずれも彼と関係が深い。p286
ヘーパイストスの出自
一般的にはゼウスとヘーラーの子
一般の神話では、彼は大神ゼウスとその妃ヘーラーとの子とされている。
彼は母神に味方してゼウスに手向かったため、足を引っ掴まれて、オリュンポスの神々しい宮殿から抛り出された。
この時以来彼は脚を挫いてびっこになった、という。p287
ヘーシオドスはヘーラーの単性発生
しかしヘーシオドスでは、彼はヘーラーだけが一人で産んだ児ということになっている。p287
ヘーパイストスの起源は、エジプトのメンピスの主神プタハであり、地下鉱物の神、冶金の神である。
またカベイロイの神でもある。

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